主 (あるじ)亡きあと
2026年 03月 28日

ユニットはいわゆるHPDシリーズでA/Bが15インチ, C/Dが12インチ, Eが10インチ。DevonはHPD315 (30㎝同軸ユニット)を搭載し、常識的サイズでフロアスピーカー並みのパフォーマンスを狙った戦略モデルでしたが、当時のスピーカーに共通するウレタンエッジの劣化が最大の弱点です。
写真の個体もぱっと見、破れてはいませんが、加水分解が進行し本来の弾性が失われて亀裂が入っている個所も散見されます。こうなるとエッジ交換が必須ですが、HPDは構造の複雑さもあって通常のエッジ交換では本来の性能を復旧できません。過去にも中古ショップで施工されたHPDユニットでエッジ交換時のセンター出しが不完全で高域で音が歪んだりコイルがタッチして結局再修理になったケースを何度も見てきました。買取額の倍以上のOH費用を掛けて再生させるか...自社アンプであればオーバーホールはお手のものですが、社外品なかんずくヴィンテージ物は本当に大変。託して下さったお客さんの想いを最優先してしっかり考えたいと思います。
そういえば昨日、亡くなったご主人さまのオーディオを整理したいという方のお宅へ伺ってきました。会社から数分の場所で当社でのご購入履歴はありませんでしたので、おそらくネットで調べたか誰かから聞かれたかのいずれかでしょう。ご自宅に伺うと、まさに昨日まで鳴っていたかのような状態で大型スピーカーや往年の真空管アンプなどが鎮座しています。
どこのご家庭でもそうですが、ご主人亡きあとご家族はオーディオをどうするか途方に暮れると伺います。使えるのか使えないのかも分からない、価値があるのか無いのかもわからない、産廃で出すにもお金がかかる、ひょっとしたら高く売れるかもしれない、でも誰に頼んだらいい?...そういう話を何十回も伺ってきました。
奥さまは音源も含めオーディオ周りはすべて持っていって欲しいと仰っていましたが、私からは ”無くなると寂しくなりますよ”ともお伝えしておきました。それは単なるモノでなく、ご主人の人生の一部であり、大切な宝物。そのオーディオ機器の向こうに今でも元気だった頃のご主人の一挙手一投足が浮かび上がっているに違いないからです。
以前こんなこともありました。買取訪問時にまずアンプ系を全部車に積み終えて、別の車にスピーカーを積もうと部屋に戻ると奥さまがスピーカーを撫でながら何か喋っておられます。喋っておられるというよりはスピーカーに何か語りかけていらっしゃる様子でした。業者を制して一旦外へ出て暫くしたあと、奥さまに ”大丈夫ですよ、お預かりしたものは可能な限り再生させて、誰かのお手許でこれからもずっと元気で鳴っていきますから” と申し上げると涙を流されながら微笑んでいらっしゃいました。

オーディオは単なるモノではない。使い手の自分史そのもの...と言っても多くの方には分かっていただけないかもしれませんが、この試聴室も遂にその時を迎えつつあるという事なのだろうと思います。
