今日は横浜のKさんからの依頼案件。Tannoy IIILZのオーバーホールです。過去10回程度やってきた事のサマリー的な内容になりましたので記録兼備忘録としてアップします。長くなりますが、ご興味ある方の参考になれば幸いです。

Tannoy IIILZ (UK)オリジナル
エンクロージャーの割れ, 色褪せ, 欠けの殆んどない非常に良好なペアです。サランネットの破れやシミも全く見受けられません。

背面も塗装の劣化や打痕はありません。製造から約55年 (詳細後述)も経過しているとはとても思えませんね。過去触ったなかでも一二を争う上物です。

45度傾いている銘板。縦置きでも横置きでもOKという意味です。

シリアルNo. 1343XXはIIILZの製造期間 (1967~74)のなかで後期 (72年~73年)ロットに該当します。もう少し詳しく書くと1272XX〜1419XXが ”後期角フレーム期”とも呼ばれる全盛期の品物で、1442XX〜1461XXが最終ロット(73~74年)です。

これが角フレームと呼ばれるMonitor Gold IIILZです。ちなみに私どもで以前製造, 販売していた
Sunvalley 10inch Coaxialは中期丸フレーム期のユニットのレプリカです。

ユニットを外してみます。Fixed Edgeは破れなく艶もあり、一部にみられる固化もありません。振動板やエッジが劣化していてはオリジナルといえ価値は半減ですので、必ずチェックしなければなりません。

次に磁気系の確認をしていきます。ここで分かったのは、今回お預かりしたペアは以前に少なくとも一度、恐らく国内業者さんによってオーバーホールを受けていること。
上の写真で2と書いてある養生テープの数字が確認できると思いますが、これはオリジナルにはありませんし、イギリス人の書く2と筆跡が違います。ダイヤフラムの写真を撮り忘れましたが、1番ユニット, 2番ユニットともアルミ合金製ダイヤフラムははきれいで引出し線の酸化もありませんでした。

IIILZ系ユニットで弱点と言われるユニット側コネクター。ここが緩んだり酸化していると音質が悪化したり音切れが発生しますので、アルコール洗浄し内部を研磨しておきます。

続いてはリアパネルについているHF側のEnergy / Roll Off調整部の接点確認。幸い全く接触不良やノイズはありませんでしたが、念のためここもアルコール洗浄しておきます。Energy / Roll Offについては
こちらのサイトが参考になると思いますので。併せてご覧ください。

次の工程が一番の山場であり関所でもあるネットワークの確認。一度も手が入っていないものは、ほぼ100%コンデンサーの容量変化でクロスオーバー周波数が大幅にずれています。現実的には不正改造品も散見され、音が大きく変わってしまっているものも少なくありません。

蓋を開けてみます。やはり手が入っていることが証明されました。オリジナルはノンポーラー電解コンデンサーですがフィルムコンに交換されています。手法的にここで電解に戻すというのは明らかにミスジャッジで、長期安定性ならびに音質的見地からもフィルムに交換するのは正解です。
上の写真で一番大きく見える黒いフィルムコン (22uF)と、左下の黄色っぽいフィルムコン (8uF) が交換されたコンデンサーです。

この回路図は最終ロット(Amended 5/6/74=1974年修正版)を2000年にTannoy社が清書して再リリースしたもの。ここで注目すべきはローパス側の容量が25uFとなっている点です。
実はこれには補足があって設計値は25uFですが、実は22uFで製作されたオリジナル個体もあるという事実です。なかにはペアで売られていても、片側22uFでもう一方が25uFという代物も見たこともあります。コンデンサーの寄量誤差は抵抗よりもバラツキが大きく、E3あるいはE6系列で製造されることが多く、25uFは系列外の値のため、便宜的に22uFを使った個体もあるということでしょう。
ちなみに22uFと25uFの差異について書いておくと、数字的には設計理論値であるfc=1.2kHzに対して22uF版ではクロスオーバー周波数が約6.4%上昇することになります。現実的にはセレクター接点や配線抵抗のばらつき、左右個体差の方が影響を想定すると誤差範囲とも言えなくないですが、今回は可能な限り忠実にオリジナルを目指すことにします。

問題は現在市場に音質的, 品質的, 耐圧的に認証できる25uFの選択肢が極めて限られていることですが、上述の通り系列外容量で調達性が非常に悪いので仕方がありません。
今回ついていた22uFはSolen (仏)で色付けのない音質で広く使われていますので、これを温存したうえでASC 2.2uFのプラス交差品を選別し、Solenにパラって1番, 2番ともジャスト25uFとなるようにしたのが上の写真です。実際聴いてみると25uF版の方が重心が下がって低域の量感も増えて聴こえますので、やって良かったと思っています。

OH完了後のF特
今回は半ば自己満足的にフルオリジナルを目指してオーバーホールした個体のレポートでした。最後までお付き合いいただき有難うございました。