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画餅 (がべい)

オーディオというのは本当に奥深いもので、理論上, 定量的に正しいことが感覚的, 定性的に最適とは限らないということがよくあります。もちろん理論や客観性を無視した暴走は無意味ですが、データを理解しつつ感覚を重視することを選択することも、これまた内心の自由といえましょう。

今日はこれまで何度もテーマに挙がってきたスピーカーとアンプのインピーダンスマッチングについて考えます。少々ややこしい内容ではありますが非常に重要な内容でもありますので、お付き合い頂ければ幸いです。

まず下記のエントリーを再読して下さい。

これを踏まえ、今日は改めて真空管アンプと最適負荷の関係について考えてみます。

皆さんが今まで8Ωのスピーカーを使っていたと仮定します。アンプは真空管で負荷インピーダンスも8Ωで製作されていたので問題ありません。それがスピーカーが変更されることになって、そのスピーカーの公称インピーダンスが4Ωであった場合、アンプを4Ω仕様に変更するか、しないかという選択を迫られたとします。さて皆さんはどうされますか?

まず設計的には最適負荷を選択することに技術的矛盾はありません。出力トランスによってインピーダンス変換を行っている真空管アンプにおいて設計者が意図した動作条件により近い環境で使用することは極めて正当であり、アンプ側に複数の負荷 (例えば4 / 8Ω)が用意されている場合、まよわず4Ωを選択するべきです。

他方、負荷インピーダンスが一種類しかない真空管アンプも多数あります。汎用アンプの場合は8Ω負荷となっている場合が普通ですが、では何故4Ωや6Ωという別の負荷インピーダンスが選択できないのでしょう。単にコストダウンのため?...実は必ずしもそうではない (場合もある)のです。

実際ペア200万円を超える真空管パワーアンプで負荷インピーダンスが1系統しか用意されていない機種もあります。このアンプは設計上は8Ω負荷でも説明書には4~16Ω対応と明示されています。これには様々な理由がありますが、メーカーの意図としては出来るだけ出力トランスの性能を最大限に引き出すため、最外周の巻線を使って音色的メリットを優先して欲しいという意図が託されていると理解すべきです。

具体的な事例を挙げましょう。これは全てのアンプに共通する挙動ではないため具体的な機種名は非公表としますが、設計上の最適負荷が特性上の最適負荷とはならず、聴感上も劣るというファクトのひとつです。
画餅 (がべい)_b0350085_02575658.jpg
このアンプは300Bシングルで負荷インピーダンス1系統 (8Ω)ですが、出力トランス自体には4Ω巻線も出ていて、実験的にトランス側の負荷インピーダンスと実負荷を変えてみた時のデータです。

ここで注目すべきはアンプ, スピーカーとも4Ωで整合している場合 (右下)の出力, 周波数特性よりもアンプ側8Ω, スピーカー4Ωの場合 (アンマッチ)の方が遥かに周波数特性が良いという点です。実際、聴いてみても明らかに8Ω負荷の方が音に力があり、スピーカーもよく歌っていました。言い換えれば中間タップから出した4Ω負荷は出力トランスの最大能力を引き出せていなかったとも言えるでしょう。また負荷インピーダンスが下がることでアンプの測定上のゲインも下がるので、なんとなくアンプの駆動力が落ちたように感じるかもしれません。

冒頭で挙げたエントリーでも書いておりますが、アンプ8Ω, スピーカー4Ωの場合はアンプが想定しているよりも重い負荷がぶら下がる訳ですので、アンプによっては留意が必要ですし、極端な不整合(アンプ16Ω, スピーカー4Ωというような組合せ)は何のメリットもありませんので厳に慎むべきですが、個人的にアンプ側に4 / 8 二系統が用意されていてスピーカーが6Ωの場合は8Ωを選択します。

これがアンプ8オーム, スピーカー4Ω場合はケースバイケースですが、実際に上の表のような事例もあるので迷ったら、実際聴いて判断したうえで、アンプの設計者に確認するか、実際に測定してみて決めるという選択肢もあると思います。最後にスピーカーのインピーダンスは一定ではなく、公称インピーダンスが一番低い値を表示しているに過ぎないという点を再確認しておきます。

曹叡が三国志 (魏書)で言っている通り、”画餅(がべい)” つまり理屈は立派でも、現実的には最適解ではない事が世の中には沢山あるという事ですね。


by audiokaleidoscope | 2026-02-16 23:59 | オーディオ

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