私たちにとって永遠のテーマである”真空管はいつまで使えるか”、これは難しい問題です。単に新旧で語れる問題でなく、製造品質, 累計使用時間, 動作条件...さまざまなファクターが重層的に影響するからです。

これは1920年代後半に製造されたWesteren Electric 216A。わたしのところに来て15年程度 WE7Aアンプで使っていますが、まだまだ現役です。
このたびMさんから”このタマ使えるだろうか”とお預かりしたKT88を検査してみましたので、その結果を共有させて頂きたいと思います。貴重な実例をご提供いただいたMさんに、この場をお借りし御礼を申し上げます。

SOVTEK KT88。ダルマ型のシェイプが懐かしいです。私どもでも2002年頃以降、たしか初代SV-275でこのKT88を採用していました。Mさんによれば90年代後半の個体だそうです。さてこのKT88は使えるでしょうか。
ヒーターは付きます。見た目ゲッターも残っています。まずこの2点が大きなポイントになる訳で、ヒーターが切れていれば真空管は動作しませんし、ゲッターが消失して管内が乳白色に変化していれば空気が混入していて本来の動作とはなりませんし、本来黒光りしているゲッターが消失寸前まで減っている場合は、相応の累計使用時間であったことを推定させる材料となります。その点では上の4本は外観的には使えても良さそうです。
注目いただくべきは黄色の紙に書いたGm値(相互コンダクタンス)です。これはチューブチェッカー上で検出された値ですので、実際のアンプでの動作条件とは乖離があり、ひとつの参考値に過ぎませんが、このチューブチェッカーでの棄却値は5000となっており、5000未満の値を示している4本中2本は本来KT88が有すべき特性を満たしていないと言えます。車でいえばタイヤの空気圧が抜けていてペコペコの状態に近いといえばイメージし易いでしょうか。
しかし現実的には多くの方がこのような試験機をお持ちでない訳で、実際使えるタマかどうかはアンプに実装してみないと分かりません。では実際にSV-P1616D 多極管仕様に使ってみたいと思います。念のためプレート電流を直読できるメーターを付けて、万一の際にはすぐ電源を切れるようにしておきます。

その時の写真がこれです。自己バイアス回路では本来或る程度のバラツキ内であれが一定のプレート電流でバランスするものですが。今回無作為に挿入して通電した結果、4本中2本の電流が振り切っています。特に左から2番目のKT88は100数十mA流れてしまっているものと思われます。
プッシュプルアンプはアッパー / ロワー 2本の出力管が平衡動作をすることで正しく信号の合成が行われるべきものですが、この状態は極端なアンバランス状態といえ、恐らくこのまま放置したら電源トランスの温度ヒューズが溶断するほどのダメージを与える可能性を示唆しています。
ちなみにMさんが同時に送って下さったKT170(新品)を同じアンプに挿してみました。

これが本来の姿で理想的なマッチドクワッドといえます。
このように真空管というものは見た目や製造年次だけでは分からない不確実性を有しています。特に中古球の場合は、どのように使われてきたか来歴が不明ですので、一層の注意が必要な場合もあるでしょう。私のアンプでは大丈夫だったと言われてしまえば、それで終わりの自己責任の世界ですので心配だったら留まる、”君子危うきに近寄らず”の姿勢も大切なのかもしれませんね。お互いに注意していきましょう。