修理という業務は時に二律背反を孕んでいて、その狭間で難儀することがあります。
”これからも大切にしたいので、しっかり診て必要な対策をして下さい”とお預かりするものほど、傷んでおらず手を入れる部分が少なかったりするのに対して、”もう長いこと使ってきたので、最低限でいいから出来るだけ安く頼む”という案件ほど実はタイヘンな状況であることが往々にあるのです。
今回お預かりしたWS-350Bはその典型ともいえるものでした。お客さんの名誉にかけて申し上げると、単純に必要最低限のコストで原状回復を希望されただけのこと。私が逆の立場でも同じことを言ったと思います。
最初、電話でお話を伺った時はセレクターが不調。通電後しばらくスピーカーからブーンというノイズが出るというものでした。ここで私は”セレクターをアルコール洗浄して、アース周りを見直せば大丈夫だろうと早合点して、”大丈夫、すぐ直りますよ”と申し上げたことが大きな過ちでした。実機が届いて思わず唸りました。

写真では分からないと思いますが、キット購入から17年間という時間が経ってアンプの外側だけでなく、シャーシ内部にまで着色汚れがこびりつき、ベタベタしています。恐らくお客さんは愛煙家で、アンプの間近で音楽を聴かれながら煙を燻らせていらっしゃったのでしょう。セレクター, ボリュームの端子内部にまでタールが浸潤しているような状態でした。
接点洗浄剤で何度か洗浄しても積年の汚れは頑固で除去できません。
1φ程度の棒ヤスリで届く範囲を研磨してみたのですが、これもNG。結局セレクターとヴォリュームは別の部品取り用に買い取らせていただいた機台から移植する形で対応せざるを得ませんでした。
ソケット内部にも汚れが回り込んでいますし、ハンダ部も変色しているので、基板を外して注視したところ、アース配線の一部にハンダ部の劣化による接触抵抗が生じている部位が何箇所か見つかって修正。また初段6SN7が劣化で残留ノイズ的に規格外(Typicalの3倍程度)であることが分かり、お客さんのご了承を得て2本とも交換させて頂きました。新品だと高いので、使用済品ストックからペアとなるものを選別し、なるべく費用が抑えられるようにします。
…こんな感じで、到着前は1~2時間で終わるかもと思っていたメインテナンスが予想外の大工事になってしまいました。何事も現地現物、モノを見て客観的に判断してからお客さんに工数と費用を連絡しないといけなかったと大反省する結果となりました。

出来る限りの全体点検をして、バイアス調整を行い全体測定を実施してクロージング。お客さんに電話して、最初申し上げた概算金額を大幅に超過してしまったことをお詫びしたところ、”いやいやかえってお手間をかけました”と仰って下さって救われた気持ちになりました。何事も推測での物言いは禁物だと自分を戒めているところです。

出力管350Bのソケットとガラス接合部が外れて2本ともグラグラになっていたのをエポキシで接着し、これから一昼夜連続エージングして出荷というところまで来ました。かなり苦労した案件ではありましたが、外観は別として、電気的, 音質的にはご購入当初のパフォーマンスを回復したことに満足いただけるのではないかと思っています。
修理という業務は一点一様。それぞれのケースに合致した適切な施策が如何に重要であるかを改めて勉強させていただいた機会となりました。