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オーバーホールどこまでやるか問題

最近とても多いオーバーホール案件。”壊れてないけど、先のことを考えると今のうちに診てもらっておくか...”的なお話です。車でいうところの車検みたいな感じでしょうか。

ここで問題となってくるのがオーバーホールの定義です。元々の意味としては「機械や設備などを分解・点検・修理・清掃し、性能を回復または維持するための整備作業全般」ということになるかと思いますが、考え方によって対処レベルは大きく変わってきます。

例えとして適切かどうか分かりませんが、車検をディーラーでやってもらうか、近場のモータースに出すかでオイル, ワイパー, フィルター, バッテリー, 冷却水等の交換(補充)に対しての閾値(基準点)が異なるイメージがあります。”ワイパー少し傷んでいるみたいなので交換しておきました”, ”前回の点検から5000km走っているんでオイル交換しておきました”みたいなレポートに対しての正否をユーザーレベルで判断することは困難。どこまで予防保全するのか、そして対価はどうなのか...大いに気になるところです。

では私どもがオーバーホールをお受けする場合の対処レベルを敢えて言うと、”必要と思われるところは全てやり、不要なことは一切しない”と言う感じになるでしょうか。感覚的な閾値は”この状態でプラス10年はOKな状態”という基準で診させていただいています。

今日は20年選手のmodel2(DAC)とSV-14LB(プリアンプ)のオーバーホールを実施事例をご紹介します。2台とも組立代行品です。
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model2 / Mullard ECC88仕様
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SV-14LB / Philips ECG 5687WB仕様(アップグレード版)

状態に関係なく必ず実施するのがシャーシ内清掃とネジ全箇所のトルク確認です。コンプレッサーでシャーシ内に堆積している埃などを強力に吹き飛ばしたあと、真空管を抜いてソケット洗浄。ICやOPアンプ等でソケット実装されている場合は外してアルコール洗浄(この作業は経験と特殊な工具が必要なのでご自身でやるのは避けた方がよいかも)。

そのあと定トルクで全箇所のネジを再締結していきます。M3ネジで0.6~1.2 N·m(ニュートンメートル)を基準(機種, シャーシ仕様, ネジ種類による)としています。機械的強度はもちろんですが、安易にフタを外して筐体の振動モードが変化し音が変わってしまったなんて話もある位で、ネジというのは実は基本中の基本。そしてその後はセレクター, ボリューム等の接点洗浄、状況次第で研磨も必須項目です。

続いては電気的状況の確認に入ります。まずは電圧測定。基準値に対して公差内であるかの確認をしていきます。この段階で異常値が出れば真空管に劣化が発生している可能性があります。

電圧測定の後は一般的な左右ゲイン差, 残留ノイズ, 周波数特性, 歪率等を監視する訳ですが、陥りがちなのは最大値に注目しがちで実用レベルでの振る舞いを看過しがちなところです。

パワーアンプで言えばTHD10%での最大出力も勿論ですが、1~2Wでの歪率の方が音質に対しては重要で、例えば1W出力で1%以上の歪があったり、残留ノイズが異常値である場合は真空管だけでなくCR系の劣化などを疑う必要も出て来ます。プリアンプや入力ヴォリューム付パワーアンプの場合は時計で最大ゲインだけでなく、9時~10時の摺動角でのギャングエラーの確認が重要で0.7dB以上の差異がある場合は交換するか補正を行います。
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model2に実装されていたMullard ECC88は左右ゲイン差が0.5dBあり、ノイズレベルが僅かに基準値を超えていたので、ペアとなる一本を再選別し交換。-10dBFS時の出力が300mVでバッチリゲインが合いました。
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写真では分かり難いですが右下の二連ヴォリュームはオープンタイプで酸化被膜ができやすいので特に念入りに洗浄しました。言い忘れましたがハンダ箇所は全て竹ピンセットで引っ張り確認をしたうえで打診(振動を与えてノイズが出ないか)も行います。
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あとは接点系の確認です。SV-14LBではXLRバランス出力もあります。日ごろお使いでない部分もしっかり確認していきます。
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model2の入出力プラグもきれいに研磨しておきます、ここで接触抵抗があっては良い音質は望めません。

...ここまでで何となくお分かりいただけるかと思いますが、オーバーホールというのは、実は部品交換よりも既存部品を活かして如何に性能を維持(向上)させるかという事の方が遥かに重要なのです。

今日ご紹介した2台は入庫時点で何か問題があったかというと、実用上そのままで何の問題もありませんでした。ただ、基本的な部分にしっかり手を入れることで確実に信頼性が向上します。地味な作業ですが、こういう事の積み重ねが製品寿命に大きな影響を与えることは間違いなく、お預かりする価値は十分あると思っています。

今回は組立代行品だったので短時間で作業が完了しましたが、キット組立品の場合は数倍の時間(工数)がかかるのが普通です。製品レベルというよりもパーツレベルでの確認は大変ですが、組立代行品以上に大きな改善が見られるのも事実です。
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作業完了時の報告書に内部写真を添付して完了。あと10年、いや20年頑張ってくれると嬉しいですね。

by audiokaleidoscope | 2025-09-03 23:59 | オーディオ

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