オーバーホールどこまでやるか問題
2025年 09月 03日
ここで問題となってくるのがオーバーホールの定義です。元々の意味としては「機械や設備などを分解・点検・修理・清掃し、性能を回復または維持するための整備作業全般」ということになるかと思いますが、考え方によって対処レベルは大きく変わってきます。
では私どもがオーバーホールをお受けする場合の対処レベルを敢えて言うと、”必要と思われるところは全てやり、不要なことは一切しない”と言う感じになるでしょうか。感覚的な閾値は”この状態でプラス10年はOKな状態”という基準で診させていただいています。
今日は20年選手のmodel2(DAC)とSV-14LB(プリアンプ)のオーバーホールを実施事例をご紹介します。2台とも組立代行品です。


状態に関係なく必ず実施するのがシャーシ内清掃とネジ全箇所のトルク確認です。コンプレッサーでシャーシ内に堆積している埃などを強力に吹き飛ばしたあと、真空管を抜いてソケット洗浄。ICやOPアンプ等でソケット実装されている場合は外してアルコール洗浄(この作業は経験と特殊な工具が必要なのでご自身でやるのは避けた方がよいかも)。
そのあと定トルクで全箇所のネジを再締結していきます。M3ネジで0.6~1.2 N·m(ニュートンメートル)を基準(機種, シャーシ仕様, ネジ種類による)としています。機械的強度はもちろんですが、安易にフタを外して筐体の振動モードが変化し音が変わってしまったなんて話もある位で、ネジというのは実は基本中の基本。そしてその後はセレクター, ボリューム等の接点洗浄、状況次第で研磨も必須項目です。
続いては電気的状況の確認に入ります。まずは電圧測定。基準値に対して公差内であるかの確認をしていきます。この段階で異常値が出れば真空管に劣化が発生している可能性があります。
パワーアンプで言えばTHD10%での最大出力も勿論ですが、1~2Wでの歪率の方が音質に対しては重要で、例えば1W出力で1%以上の歪があったり、残留ノイズが異常値である場合は真空管だけでなくCR系の劣化などを疑う必要も出て来ます。プリアンプや入力ヴォリューム付パワーアンプの場合は時計で最大ゲインだけでなく、9時~10時の摺動角でのギャングエラーの確認が重要で0.7dB以上の差異がある場合は交換するか補正を行います。




...ここまでで何となくお分かりいただけるかと思いますが、オーバーホールというのは、実は部品交換よりも既存部品を活かして如何に性能を維持(向上)させるかという事の方が遥かに重要なのです。
今日ご紹介した2台は入庫時点で何か問題があったかというと、実用上そのままで何の問題もありませんでした。ただ、基本的な部分にしっかり手を入れることで確実に信頼性が向上します。地味な作業ですが、こういう事の積み重ねが製品寿命に大きな影響を与えることは間違いなく、お預かりする価値は十分あると思っています。
今回は組立代行品だったので短時間で作業が完了しましたが、キット組立品の場合は数倍の時間(工数)がかかるのが普通です。製品レベルというよりもパーツレベルでの確認は大変ですが、組立代行品以上に大きな改善が見られるのも事実です。


