モノづくりを生業としていると、なんらかの形で後継モデルをリリースすることが常です。そしてその後継モデルに作り手の本質が現れることがしばしばあります。
8/5情報解禁されたエレキット
TU-8450にメーカーの気概のようなものを感じましたので、メーカーの許可を得てその概要を共有させていただきます。
では早速実機をみていきましょう。

左側のプリアンプがTU-8450。右が昨年デビューした
TU-8400です。つまりTU-8450は過去モデルTU-8200のシリーズモデル
TU-8500の後継モデルという位置づけです。
ここで自らの不明を恥じなければなりません。しばらく前にこのTU-8450のデモ機を送っていただいて、パッと実機を見た瞬間に”なんだ、TU-8500の色違いじゃん。まだ8500在庫あるし時間あるときに見ればいいや...”と思ってしまっていました。
そしてメーカーの情報解禁を経て、いよいよ向き合うか...と思い立ち実機を精査したところ、同じのはガワだけで内容的には別物、大幅にバージョンアップしたニューモデルといっても良い内容であることを認識しました。

これが外観。色がマットブラック系に変更され、電源SWがTU-8400と同じプッシュ式に変わったくらいで、あとは大きな差異がありません。

これがリア。TU-8400同様、入出力ターミナルをメイン基板に垂直に立てリアパネルと兼用している合理性が光ります。TU-8500では装備されていなかったRec Outが追加されているのもいいですね。
あと写真では分かり難いですが、左下がフォノ入力のMM/MC切替。ライン入力は3→4系統(入力4は3.5mmミニジャック)に増えました。なおTU-8500にあったラインアンプのゲイン切替(0dB/10dB)はなくなりました。これについては後ほど。

で、おもむろに中でも見るか...と思ってネジを外して驚きました。これぞまさに新設計。単なる後継機と片付けるのは余りに勿体ないことをこの瞬間に理解しました。

これがTU-8500の内部。機構的にも再検討され、基板自体が完全リニュアルされています。これは本気だ、ということが分かりますね。

まず目を引くのは真空管のシールドキャップ。ノイズ耐性を更に高めようという意志の表われです。小型機でシャーシ内に真空管が入っている場合は電源部からのリーケージフラックス(漏洩磁束)の影響を受ける可能性があります。TU-8500でその不具合は全くありませんでしたが、モアベターを狙ったということでしょう。

キャップを外してみました。真空管は12AU7で変わっていません。今回真空管なしバージョンと真空管付きバージョンの二種類が出るようです。

ここがフォノEQセクション。OPアンプによるCR型です。OPアンプの交換による音の違いはタマころがしと同様、OPアンプ職人とよばれる同好の皆さんの活動によって多くの方に共有されるに至りましたが、実はDIPタイプのOPアンプは製造終了まっしぐらで、多分ですが5年後くらいにはほとんどが面実装に変わってしまうでしょう。
つまりOPアンプ職人の皆さんの活動範囲は大幅に縮小を余儀なくされることが必至で、内緒話ですが今のうちにゲットしておかないと後で何倍もの価格に上がることは間違いありません。そのうちC to C市場で”NOSのOPアンプです”みたいな表現も出ることでしょうし、大陸あたりから模造品が大量に流通することも予想されます。

ここがカップリングコンデンサーセクションですね。容量は0.47uFです。近年のエレキット製品に共通のバージョンアップ可能な基板レイアウトになっています。いま気づきましたがTU-8500では1/4W抵抗(通称”シブイチ”)だったのが、TU-8450では1/2Wタイプに大型化されて、作りやすくなっているようです。
カップリングの左上のチップはB電源を遅延させるためのマイコンです。一般的にはCR+タイマーICによる遅延が多いなかでエレキットは一貫して真空管回路にマイコンを活用しています。

これが上で少し述べたゲイン切替の細工です。TU-8500ではリアパネルのSWでゲインを可変させる方式でしたが、TU-8450では基板のハンダづけによって製作時に必要なゲインを決める形に変わりました。
これは想像ですが、ゲイン可変=NF深度の変更ですのでNFラインの冗長化を避け、安定化を向上させたのかもしれません。ちなみにTU-8500よりゲインは上がっていて公称値で13.6dB/9.5dB(写真の”JP1”をジャンパーするとゲインが下がる)の択一となっています。
パワーアンプがハイゲインあるいはお使いのスピーカーが高能率である場合ゲインLoを選ぶというのが使い勝手上は便利ですが、音質的にはHiの方が好印象であったことを付け加えておきます。
最後にざっと測定してみたのが下の表です。

公称値との差異は真空管のバラツキと、当社測定基準が負荷10kΩと非常に厳しい条件となっているからです。通常47kΩとか100kΩ負荷にして受け側のインピーダンスを上げてドライブし易い条件設定をするのが普通です。10kΩというのはプリから見ると最悪の条件にちかい環境で、こういう条件で測定すると機器の真の姿が見えてくるものです。
この条件でもフラットアンプのF特はTU-8500よりもはるかに優秀で200kHzオーバー。ここには書いておりませんが出力インピーダンスは600Ω程度に抑えられており、パワーアンプのドライブ力は十分です。
...という訳でTU-8450がお見事なプリであることを確認しました。OPアンプとカップリングを換え、良いタマを使えばかなりのハイグレードモデルを脅かす存在になるでしょう。私どもでは8月下旬から予約スタートの予定で、今回もSVバージョンを作って松竹梅で攻めてみようかと思っています。