今日は急患対応から。急にスピーカーからバリバリノイズが出始めて、そのうち両chから音が出なくなったというご相談。パワーアンプを替えても変わらないのでプリが原因だと思う...ということでした。雰囲気から急を要すると感じたので、直接私の作業場まで持ち込んでいただいて緊急対応することに。

これが急患で運び込まれたSV-310。履歴を確認すると2005年7月キットでお納めしたもので、ちょうど20年経ったということになります。真空管もまったく当時のままでWestern Electric 310A, JAN 274Bでずっと使ってこられたそう。
状況から整流管が寿命になったか...と思いつつ、裏蓋を開けて内部を確認すると電解コンデンサーの劣化(膨れ, 潮吹き)は確認されず、抵抗等CRパーツの変色や過熱痕もありません。いよいよ整流管か...と思い通電してみることに。整流管がお釈迦になっている場合は直流系が死んでいるはず。
...私の隣でお客さんは心配そうに固唾をのんで見守っておられますので、作業の内容と目的をお話しながら逐一進めていきながら、測定器に現れる数値の意味をお伝えする必要があります。最悪連鎖故障を起こす可能性も危惧しつつ電源を立ち上げると...ノイズは全くありません。波形的にも正常で左右ゲインもバッチリ合っています。周波数特性も10Hz以下~135kHz(-3dB/10kΩ)と超優秀で、直流系の電圧も全く下がっておらず整流管もピンピンという状態でした。つまり故障なし、というか超健康であることが診断されました。
こういうことはよくあります。オーディオは複数の機器がシリーズ(直列)に接続されるので、不具合が発生した際に何が原因であるかを特定することが難しい場合があります。今回はパワーアンプを替えてみるという行為は適切であったものの、何となくプリが怪しいというバイアスがかかってしまっていて、ちょっと確認しただけで”やっぱりそうか”と思い込んでしまわれたのかもしれません。
全体清掃と接点系の洗浄を行い、ガリやノイズも一切ないことを確認したうえで、”大丈夫、新品同様です”とお返ししました。これから真のトラブル原因を探していただくのは大変ですが、一日も早いシステム全快をお祈りします。
ワークベンチが空いたので、今月の認定中古の確認を始めていきます。

これはSV-86B(トランスドライブ300Bpp)です。個人的にも大好きな機種のひとつです。もともとオールWestern(WE310A, WE311B, WE300B, WE274A)でお使い頂いていた個体ですが、真空管はお客さんが継続してお使いになるということで、ほぼタマなしの状態で里帰りしました。

上のSV-310と違い、入荷検査では音は出ているものの全体に劣化がみられたので、電源系, 増幅系のパーツはほぼ全交換することにしました。ここでちゃんと対処しておけば更に20年使っていただけるので、いまはOKでも予防保全的に作業しておくのが私どものミッションとなります。
上の写真は改修を終えたアンプ内部。パーツレベルまで遡って対策できたので、今月の認定中古では良い状態で出品できると思います。悩みどころは真空管。もちろん良いタマでセットアップしたいのですが、オールWesternにすると二台で100万近い値段になってしまうので、現行球でお求め易い組合せとしつつ86Bの持ち味を失わないようにしてあげたいと思っているところです。
壊れたと思っても実は壊れてなかったSV-310, 大丈夫だと思っても相応に劣化が見られたSV-86B...オーディオの経年変化は実にさまざま。皆さんのお手許の愛機の健康診断が必要でしたら、お気軽にご連絡いただければと思います。