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座標軸

今日は昔話です。

2006~7年の頃だったと思うのですが、L社の50CA10ppが調子悪いんだけど何とかならないか?という電話がありました。当時はまだNECの50CA10の未使用品が手に入りましたし、桜マーク(自衛隊納入品)のストックも会社にありましたので、お受けすることにしました。

メンテが完了し返送先の住所を伺うと、音楽業界では知らぬ人はない方のオフィスであることが分かり、それがきっかけで私どもがコンシューマー向け100%から特機(業務用)としての需要にも応えられる機種を手掛ける大きな原動力となりました。結果SV-192S / ProやSV-192A/Dが誕生し、それまでスタジオ専用だったMUTECのマスタークロックなどが一般オーディオユーザーに一気に拡散されたきっかけともなりました。

その時期を振り返ったエントリーを再掲しておきます。

そしてこの直後、2010年頃からいろいろな現場やツアーで192シリーズを使ってみたいとお声がけ頂くようになり、音源制作に関わる人やPAの業界の人たちとの付き合いが一気に増えました。ツアーの移動時に試聴室へ寄られたり、第二(当時)へ来られたりする交流のなかで、或る大御所の方から”つまらないと思うかもしれないが、ヤマハのNS-10は持っておいた方がいい。自分の耳を「校正」(リセットの意)することも必要だから”と言われ購入したのが、今でも作業場で聴感チェックで使っているNS-10Mです。
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NS-10M周波数特性(メーカー発表値)

中古で手に入れたNS-10Mを最初に聴いた印象はまさに上のグラフそのものの印象でした。ローが薄くミッドが盛り上がっていて妙に乾いた音...当時”音の湿度感”とか”ピラミッドバランス”等の言葉で代表される音を追求していた時期でもあったので、そのあまりに無味乾燥で味気ない(と当時は思っていた)音に呆然としたものです。

しかし、このNS-10Mがだんだんと ”耳の校正”といういう言葉の意味を教えてくれるようになりました。38㎝ユニットやオールホーンの独特の鳴り方に慣れてしまって、有り体に言えば自分の耳がずれていたのだと分かったのは暫く後になってからのことです。

スタジオモニターという言葉は様々な音のイメージを想起させます。その一つに”検聴”という重要な機能があり、簡単に言えば音源固有の要修正ポイントを見つけるための”物差し”である訳です。当時NS-10を現場で使っている人に何故これを使うのか訊いてみるとこんな言葉を教えてくれました。

“If it sounds good on the NS10, it will sound good anywhere”

つまりスタジオでの音作りをするうえで最も留意されるべきはユーザーの環境が想定できないこと...8cmのフルレンジもあれば巨大なマルチウェイもある、その多岐に亘るスピーカーのエッセンスがNS-10なんだということが段々と自分のなかで強く意識できるようになりました。

いまでもお客さんの家などで実にさまざまな音を聴かせていただきますが、十人十色どころではない多様性を感じます。同じ服を着ていても着る人が違えば全くイメージが異なるように、それぞれの出音もまた”音は人なり”という訳です。

あれから十数年、毎日NS-10Mで音出しをして音のチェックをしている訳ですが、最初に感じた違和感は全くありません。市場の数多(あまた)あるスピーカーのひとつの座標軸として、これからも私どもの正しいチューニングために愛用していきたいと思っています。


by audiokaleidoscope | 2025-04-27 23:59 | オーディオ

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