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検盤

明日から10日間の留守番担当。作業場の整理整頓とGW明けの納品案件の下準備をする予定です。そんななか届いたテストプレス。某アーティストさんがリリースを予定している二枚組アルバムです。
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これがCDの場合、ほとんどのケースで演者さんご自身が聴いて音質の良否や修正の要否を判断される訳ですが、これがアナログとなると話は別で、客観的に判断する環境がない等の理由から第三者にチェックを依頼するという場合が結構あるのです。

私の場合は、この仕事を通じて知り合った”演る側の人”とのお付き合いの延長で、”ちょっと聴いて感想を聞かせてよ”というレベルですが、それでも依頼をいただくことが結構増えてきました。皆さんは”発売前の音源が聴けていいなあ”と思われるかもしれませんが、これが大きな責任を伴う作業なのです。
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まず確認すべきは盤質。偏芯(センターずれ)や反りがないかどうか、これは音以前の問題ですから目でしっかり確認します。そして溝に光を当てて溝の状態を確認します。

そしてリードイン(最外周部の無音部)の長さは適当か、素材の練り具合と乾燥程度からくる暗騒音の差や針飛びし易い箇所もチェックしながら音を聴いていきます。

ご存じの通りレコードは外周部ほど音質的に有利です。内周部にいくほど単位時間当たりの針移動距離が短くなりますので情報量が減るのは勿論ですが、聴感上のハイ落ちが気になる場合もあります。曲並べもテクニックの一つで、編成が大きくダイナミックレンジの大きい楽曲を外周部に、シンプルな構成で静かな楽曲を内周部にもってくることで、物理的なマイナスから或る程度逃れることも可能です。

その他、アナログの難しいところは、単一条件下でのチェックでは客観的評価に至り難いという側面です。そのため複数のターンテーブルを用意し、様々な形式の異なる針圧のカートリッジで何度も聴き直しては評価の繰り返しです。顕微鏡で対象物を覗くような聴き方と、定位やセパレーションを確認するための俯瞰的な聴き方を交互に繰り返す作業はかなりの消耗戦ですが、ここで手を抜いてあまり聴きもしないでOKを出すと市場に粗悪品を流通させることにもなりかねませんので責任は重大です。

では何故こんなことをボランティアでやるかといえば様々な気づきや学びがあるからです。一枚のテストプレスを複数の環境で聴き比べることによって、一般に音質差が分かり難いと言われるアナログ再生機器の音質差(あえて言えば品質)が極めて明確に分かりようになります。低域の締まりや高域の伸びがこんなに変わるか...等の発見は検盤作業ならではといえるかもしれません。

その他、私の場合は音を再生するだけでなく、必ずデジタイズしてPCに取り込んでマスター音源そのものの状態をプロファイルするようにしています。
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カッティングレベルはどのくらいか、コンプはどのくらい掛かっているのか、どの帯域がEQされているか等が可視化できるメリットは大きなものです。今日聴かせていただいたのはライブ盤で低域方向のエネルギーが充実し、かなりラウドな雰囲気。相対的にハイ落ち気味に聴こえることを懸念し、エンジニアさんが2kHz~7kHzあたりを少し突いていることが分かります。曲によってピークレベルやEQを少しづつ変えて最適化するための陰の努力がだんだんと分かるようになってきます。

演奏するのも人間、録音するのも人間、そして聴くのも人間です。このような言い方は適切ではないかもしれませんが、完璧な音源など世の中に一つもありません。だからこそ”人の匠”に光が当たるのだと思います。

この黒い円盤にこんなに多くの人の叡智が込められているとは気づかないと思いますが、私はその匠がなるべくストレートに聴く人に伝わるように...と思いながらお手伝いさせていただいています。


by audiokaleidoscope | 2025-04-25 23:59 | オーディオ

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