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中古パーツの落とし穴

今日は少々お気の毒なトラブルについてお客さんの承認を得て共有したいと思います。

きっかけは以下のような電話でした。
「SV-S1616D / 多極管仕様の組立代行品を購入し約1年になりました。エージングも進み非常に良い音になったので、更にグレードアップをしようと思い立ち、過去のサンバレーさんのブログを検索を行ったところJENSENが自分の好みに合うと判断しました。

問い合わせたところ数年前に製造中止ということでしたので、ネットで探し中古の同容量品を見つけ購入し、早速指示通りの極性通りに交換し通電開始したところ、十分ほどでブーンという音が発生した直後、バリバリと大きなノイズがRchのスピーカーから聞こえ、オリジナルGEC KT88内部にスパークが発生しているのが見えました。

すぐにアンプに駆け寄りアンプの電源を落としたのですが、LchのKT88も真っ赤に赤熱していました。アンプの内部から焦げ臭い匂いも立ち上っておりましたので以降の使用を中止しました。サンバレーさんに修理をお願い出来るでしょうか?」

...概ねこのような内容でした。今日製品をお預かりしたところ、ご指摘通りの異臭が残存し出力管のカソードバイパスコンデンサーの防爆弁が左右とも開いている状況は確認できたものの、お客さんがご自身で交換されたJENSEN自体の外観に大きな変異は確認できず、内部の誘導体(オイル)の漏出等も確認できませんでした。またハンダ付けにも問題もありませんでした。
中古パーツの落とし穴_b0350085_18400976.jpg
実機内部写真

当社組立職人さんが制作した状況から改変されたのは当該JENSENのみで、その他の改造は認められません。しかしお客さんのGEC KT88は二本とも無残に壊れており、一本は電極溶断というクリティカルな状態でした。

…では何故このトラブルは発生したのでしょうか?その原因を特定するため、まずドライアップしたパスコンを交換し、高温に晒されて元の抵抗値から大きく乖離したセメント抵抗も交換したうえで、当社標準球にて通電を行ったところ、すぐに原因が判明しました。

そもそもカップリングコンデンサーの本来の設置目的は、信号に重畳する直流分をブロックし、交流分のみを次段に通過させることで段間での直流バイアスの干渉を防止しアンプの動作を安定させることにあります。つまりカップリングコンデンサーを設置することで入力側に現れたDC電位は出力側ではゼロになっている必要があります。

しかし、です。今回お客さんが中古で購入されたJENSENは実測でRch:90V, Rch:65V程度のDCがリークしていました。簡単に言えば全くカップリングコンデンサーの役割を果たしていなかったのです。結果、GEC KT88のバイアスが全く効かなくなり、プレート電流が暴走した結果の出力管破壊につながったものと強く推定されます。恐らくは前ユーザーさんは耐圧オーバーでこのJENSENを使っていたのでしょう。その結果お使いのアンプが故障し、JENSENを外して素知らぬ顔でC to Cで再販された可能性があります。

対処としてArizonaを仮づけし通電を試みたところ、幸いトランスにまでダメージが及んでおらず、それほど費用を掛けずに修復が可能であることが分かっています。お客さんに状況をお伝えしたところ「高い授業料を払いました。GEC KT88は未使用で20万円近いお金を出して購入したばかりの物で、今更ですが最初からサンバレーさんにArizona交換をお願いしなかったことを悔やんでも悔やみきれません」と大いに落胆されていらっしゃいました。

今回のような明らかなDCリークは個人的にもあまり経験がありませんが、お客さんの交換作業自体に問題がなく、使用法も正しかったことを踏まえると、自己責任で電気機器の改変を試みる場合でも、しっかり事前の確認が必要であり、確認ができない場合は慎重に検討する必要があることを改めて強く感じた今日でした。このような事故が二度と起きないことを強く願います。


by audiokaleidoscope | 2025-04-20 20:16 | オーディオ

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