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切られた桜

今日、診させていただいたSV-Pre1616Dの組立代行品。ワンオーナー品で幸い無改造。ガリも切替ノイズもない極上品ですが、ざっと測定してみると公表値から外れている部分が幾つかありました。改めて詳しく見てみると私どもが使えますよと公表している真空管が使われていたのはV3(カソフォロ段)だけで、増幅段(V1/2)と整流管は独自に選択されたものであることが分かりました。
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”タマ転がし”ブームが始まって10数年。皆さん大いに楽しまれているのは大変結構なことだと思います。その一方で、その真空管が本当に差換えて良いタマなのか、という事に関しては案外大らかに考えておられる方が多いのも事実です。

真空管には様々な動作上の条件(ルール)があります。ヒーター電圧, ヒーター電流はその基本の最たるものですが、その他にも周辺抵抗値だったり、整流管ではコンデンサーインプット容量等の遵守すべき規格というものが存在します。

具体的な言及は避けますが、このPre1616Dに搭載されていた増幅管はヒーター電流がオーバーロード, 整流管については動作上は問題なかったものの、想定している供給電圧から乖離が見られました。

依頼主さんに電話して状況を説明すると、知り合いから譲り受けたもので、その辺りの事情は全く分かっていなかったということでした。幸い標準球もダイオードモジュールもお持ちということでしたので、本体の点検(機構系, 接点系中心)の確認を行い、当社基準球で測定を行ったうえでお返しすることにさせて頂きました。

先日こんなこともありました。某社のKT88プッシュプルにKT120を挿して電源トランスを焼いてしまったアンプの修理依頼案件です。KT88=6.3V/1.6AですがKT120=6.3V/2Aです。これを僅か一本0.4Aの差として放置するか、四本1.6Aの差と考えて回避するかはユーザーさんに委ねられています。S1616D, P1616Dなど2Aヒーターのビーム管に対応しているアンプ以外では、メーカーに仕様を確認せずに使うことは避けるべきでしょう。残念ながらお預かりしたアンプは直ることなくお客さんに返させていただくこととなってしまったのは何とも残念なことでした。

そういえば今日会社から目的地に向かう道中でのこと。毎年この時期、満開の桜で目を楽しませてくれる街道が近くにあることを思い出し、いつものルートを外れて車中から楽しませていただこうと思ってわくわくしていたのですが…
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だんだんその場所に近づいても、あの薄紅色が見えてきません。あれ?もう散ってしまったのかな...と思いながら近づいていくと信じられない光景を見ることとなりました。
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数十本から百本近く整然と植樹されていた、あの美しい桜が幹の中ほどで全て無残に伐採されています。これは工場の公道沿いに植樹されていたものです。きっと誰かが”近隣の住民の方に少しでも楽しんでいただけたら…”そんなきっかけで植樹されたのではと想像します。老木の為の植え替えでも、公道にはみ出たための剪定でもなく、何らかの事由によって全て伐採されてしまった理由は何なのか、私は単なる通行者の立場ですが、私と同じような想いをされている方もきっと多いのではないかと想像します。

この企業にとっては不要で無意味なものになったかもしれませんが、日本人の心の拠りどころの一つを誰の目にも明らかな形で切り捨てた判断に対し、本当に他の選択肢はなかったのかと感じています。これが暫定的な措置で、いつかまたあの美しい風景が戻ってくる日がきっと来る、そう信じたいと思います。

by audiokaleidoscope | 2025-04-02 21:49 | オーディオ

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