曖昧さのなかにある本質
2025年 03月 30日
いまでもトップクラスのスタジオに行くと必ずといっていいほど、いわゆるヴィンテージアナログ機器が置かれている風景に出逢います。最近はプラグイン(デジタルオーディオワークステーション内で使用されるソフトウェアの追加機能)が全盛でパラメータの設定も容易ですが、アナログ機器にしかない感覚的な(敢えていえば曖昧な)、自らの感性によって音作りをする人たちが実はまだ沢山いるのです。

そしてこれら旧世代のアナログ機器には、いい意味でも悪い意味でも”個性”もっといえばバラツキが存在します。オーディオの世界と同じで、外観は綺麗でもまったく使い物にならないものもあれば、その逆もある...1700年代前半のクレモナのヴァイオリンのような個性を持っていることも忘れてはいけません。
真空管の世界と同じでTelefunkenは♢マークが良いとかMullardもブラックバーン工場かミッチャム工場がお奨めとか、Western Electric 300Bでも50年代と80年代では音の太さが違うとか、工業製品としてあるべき均質性とは逆の性質を自分に音作りに反映させるのと似ていますね。
例えば皆さんのアンプに載っている300BあるいはKT88あるいはEL34...これを別のブランドや年代のものに換えたら音はどう変化するだろうか...と考えたことはないでしょうか。もちろんその変化量は機材の設計的背景や組み合わされる機器によって変わってくるでしょう。
毎日のように”真空管が届き替えてみました。ビックリです...”的なメールや電話をいただきます。それは或る人にはプラスでも或る人にはプラスでないかもしれません。つまり出る音も違えば出た音に対する評価も十人十色。この多様さこそがオーディオの面白さです。
以前あるスタジオでミックスの現場に立ち会ったことがあります。ヴィンテージ真空管コンプレッサーの設定で”指の皮一枚”の違いに拘るエンジニアの情熱に胸打たれたことを記憶しています。私たち再生する側も音に主体的に関与し、負けずに良い音を出さないといけないですね。