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”やってくれ”と言われた気がして

お預かりした90年代の某ショップオリジナルの300Bシングル。修理は不要でしたが問題がありました。
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CV1067 / 6J5×2、6V6GTY×2, 300B×2, 5R4GY×1の無帰還トランスドライブで電源トランス, 出力トランス, チョークはTAMURA製の高級品で大きな劣化は見られませんでした。300Bのプレート電圧415V, プレート電流65mA, 出力9.5W, 残留ノイズ0.9mVと平均的なスペックですが、二点についてどうするか大いに悩みました。

いずれも回路的問題。通常トランスドライブの場合、インターステージ二次側に位相補正用のコンデンサーとグリッドリーク抵抗をシリーズで入れるものですが本品は直結。その結果と思われる周波数特性の暴れが高域で発生しており22kHz付近で発振気味でした。元々Western Electric 300Bが付属していたということですが、片側の300Bが飛んだいうお話も或いはこの高域の不安定さに起因する可能性があるかもしれません。

もう一点、このアンプの整流管が5R4GYであったところです。5R4系はコンデンサーインプット容量は4~10uF程度である必要があります。対してこのアンプのインプットコンデンサーは47uFで明らかにアンマッチです。ネットで調べると同モデルの他個体もすべて5R4が実装されていることから、恐らくこれが指定球なのでしょう。ただしこれでは電源投入後の突入電流が過大に流れ寿命的にたいへん不利で、通常は5U4系を使うべきところです。幸い電源トランスの整流管ヒーター巻線は3Aでしたし。

この二点を以て設計者の名誉を毀損する意図は全くありません。基本的なルールとして社外品に関しては私どもは積極的な設変を行いません。仮に10年後、これが誰かの手に渡って何らかの事由でメーカー修理に出された場合、単なる改造品の烙印を押されて不当な扱いを受けることがあってはならないと考えるからです。

ヴィンテージという言葉の定義は何かと尋ねられたら、私なら「時間の経過とともにその価値が下がるどころか、ますますその存在感が高まっていくもの」とお答えするかもしれません。

このアンプがヴィンテージと呼ばれるものかどうかは意見の分かれるところですが、このアンプの製作者がすでに故人で、お店も閉店されていることから、ご主人に成り代わることはできないものの、このアンプがこれから何十年も安定して動作することに対して預かった者としての責任があると考えました。

アンプの内部を見ながら既にこの世にいない、このアンプを組み立てられたお店のご主人と心の中で対話を続けました。修正すべきか、すべきでないか...しばらくして”やってくれ”、そう言われたような気がして、このアンプに手を加える意志を固めました。それが同じ仕事を志し、後に続いた者の一つの責任の果たし方ではないかと考えた次第です。


by audiokaleidoscope | 2025-03-24 22:56 | オーディオ

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