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すべてを開示するということ

今日は3台の出荷検査をやりました。そのなかでSV-EQ1616D / 松セット組立代行品の検査プロセス(の一部)をご紹介します。
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職人さんから入荷した標準品をお客さんリクエストの仕様に合わせた後変作業をしたうえで、組立確認, 測定, エージング等がわたしの担当になります。元々は標準コンデンサーで組まれ、標準球, ダイオードモジュールで動作確認, 測定を行って入荷したものを私がカスタマイズしてから再検査という流れです。

EQ1616Dは約90%が組立代行で、その中でも松セットが80%以上というやや特殊な存在ですが、私どもの全機種で最も測定項目の多い製品ですので、毎回時間を掛けて検査を行っていきます。
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まずは終段のコンデンサー(2.2uF)をASCにアップグレード。
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次に全ハンダ箇所の竹ピンセット(今回は樹脂ピンセット)チェックです。一つのラグに数本の配線, パーツリードが挿入される箇所は奥までハンダが浸潤していない可能性もあるので、すべてのパーツと配線を引っ張りテストします。そして全ネジ締結箇所を決められたトルクで締め直したあと、ネジロックで緩み防止します。
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続いて接点系のアルコール洗浄。買取品などで乾燥 / 結露の反復で接点に酸化被膜が出来ていたり可変抵抗摺動部表面が荒れたりしてノイズが出る場合がしばしばありますが、アルコール洗浄で大幅に改善する場合が大半です。さらに言うと新品のうちに洗浄しておくと後々問題が起こりにくい傾向にあります。

一次チェックは以上で次に電気的測定に入っていきます。
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まずは残留ノイズ。ショートピンで入力からのノイズを遮断して通電し、10kΩダミーロードの両端に現れる交流電圧を測定します。写真はMMポジションで0.5mV台という状態を示しています。エージングによってノイズレベルもかなり変化します。

フォノEQの測定で特殊なのが周波数特性です。
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パワーアンプやプリアンプの場合は正弦波を入力してハイ/ロー双方の3dB落ちのポイントを公称周波数特性とするのが一般的ですが、フォノEQの場合はRIAA特性に対する偏差を診ます。そこで使うのが上の写真の”逆RIAAフィルター”。オシレーターとフォノEQ間に挿入し、フォノEQ出力がフラットレスポンスに対してどの程度の偏差を有しているのかを確認します。

CR型にしてもNF型にしても、極端な話レコードのカッティング工程に使われる機器も偏差(敢えて言えば個性)を必ず持っています。知られた話でジャズのレコーディングで有名なRVG(ルディ・ヴァン・ゲルダー)の音源は100Hzで+0.5dB, 10kHzで+1.5dB程度の偏差を持っていたとされ、これが逆にRVGサウンドの肝であったとも言われています。

なおEQ1616DはRIAA含み6種のマルチカーブ対応なので、それぞれのカーブに定められたターンオーバー/ロールオフ偏差も診る必要があり、通常のフォノEQの何倍もの測定時間がかかります。

いわゆる静特性の確認が終わると電圧測定です。
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これはヒーターバイアス電圧を診ているところです。重要なのは一次側電圧が安定していること。さっきまでは102Vだったけど、エアコンが回って100.5Vになった、なんてことが商用100Vでは普通にあるので、メーカーでは基本安定化して100.0Vが常時出るようにしているのが普通ですが、一般的には±10%前後の誤差を許容しても不具合の検出は十分可能です。

その他、出力インピーダンスを確認して検査完了です。今日の結果はこんな感じ。
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測定というプロセスは業務上必要であることは言うまでもありませんが、うまく行った時の爽快感は最高です。一般的にメーカーが納品時にここまで細かいデータをお客さんに開示することはないと思いますが、私どもでは基本すべてをオープンにしています。それは製品に関わった全ての人たちの努力の集積でもあるからです。

by audiokaleidoscope | 2025-03-06 23:59 | オーディオ

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