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分水嶺

フロリダショーが無事終わり、海外初お目見えのSV-310の評価も上々ということでホッとしています。ちょっと雰囲気を感じて下さい。
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1分30秒くらいから当社とエレキットのデモブースが写ります。動画を観ていただいて気づかれる方もおられると思いますが、日本にと海外での真空管アンプをめぐる環境の大きな違いはスピーカー事情です。

日本の真空管オーディオファンがその熱度の高まりに伴いスピーカーもヴィンテージ指向に傾いた(或いは変わらなかった)のと異なり、海外では意外なほど屈託なく現代スピーカーと同居しています。

もちろん海外にも高能率なホーンスピーカーや往年のシアター系スピーカーシステムの愛好家はおられます。しかしその率は国内よりも遥かにマイナー的な存在と感じます。言い換えれば単純に半導体アンプでは得られない音の質感を求められるエンスージアストが最新のハイエンド半導体アンプと同列に真空管アンプを使っているという事実は大きな違いです。

振り返ってみると1995年8月、ステレオサウンド社から「管球王国」が創刊されました。その前段にはWestern Electric 300B再生産のアナウンスとステレオサウンド別冊「真空管アンプ大研究」(同年3月)での高評価が背景にあったことは明白ですが、例えば管球王国創刊号における”新製品研究”(p.169~)では、内外の真空管アンプと組み合わされた試聴用スピーカーはアインシュタイン Odeon No.25でしたし、第3号における”注目スピーカーと管球アンプの相性テスト”(P.9~)で選ばれたスピーカーもアインシュタイン Odeon New No.17,オーディオフィジック Spark, ボーズ363, タンノイ Stirling TWW, ディアパソン Adamantes II, JBL S3100, JBL Century Goldというラインナップです。すべて当時の現行スピーカーから選ばれたことは言うまでもありません。

もちろん創刊号以降、回顧的視点から書かれた記事もありましたが、全体的にヴィンテージ礼賛的なコンテンツに傾くのに長い時間を要しませんでした。同時に筆者陣もステレオサウンド本誌のレビュアーとは異なる”真空管アンプ専門家”タイプの人たちに取って替わっていきました。

あくまで”たられば”の話ですが、もし同誌が現代オーディオ機器と真空管アンプの同居について啓蒙, 研究する方向性を堅持していたら、いまの国内真空管アンプ市場は大きく変わっていたのではないか...というのが多くの業界関係者の共通した意見です。私たちも違う道を進んだかもしれません。

いまから15年くらい前、代官山の住宅展示場で行われたオーディオイベントで行われた某真空管アンプメーカーの代表との対談の中で、その方は”これからは普通の方が普通に真空管アンプを使う時代が来る”と予言されていましたが、果たして現在の市場はそのようになっているでしょうか。国内では今も多くの方が昭和の時代の国産スピーカー或いは海外のヴィンテージ、もしくは自作のバックロードなどが主流のように感じます。

2006年以降、私どもにも方向転換をする計画がありました。キットベースの製品をやめ、完成品専売にシフトし海外で量産するというものです。数年間従来の国内少量生産と海外量産を並行しましたが、結局は創業の精神に回帰しキット中心のラインナップに戻し国内生産体制を維持し今日に至っているのはご承知の通りです。もちろんその決断に後悔はありません。

いま改めて市場を見ると、国内では出力10W以下のシングルアンプ, 海外では出力数十W以上のプッシュプルアンプが中心です。同じ真空管アンプにも、このような分水嶺が存在するという事実は、単なる機器設計の差異でなくオーディオ”文化”の違いであろうと思います。非常に興味深いですね。




by audiokaleidoscope | 2025-02-25 20:04 | オーディオ

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