仕事柄、日々いろいろな装置の音を聴かせていただく機会に恵まれる訳ですが、いつも思うのは人間の環境順応力の高さです。あたかも猫の目が周囲の明るさによって瞳孔の開き方を大きく変えるように、ヒトの鼓膜と脳も聴こえる音に対して最も心地よく聴こえるようなモーフィング(変形)を行っているように感じてなりません。
例えば今日の午後、査定のためにずっと聴いていたLM755aの音。


お世辞にもワイドレンジではいえない755a。-3dBでいえば100Hz~8kHzくらいのナローレンジです。現代のオーディオメーカーが決して作らない(作れない)このユニットでオールドジャズやモノラルの女性ヴォーカルなどを聴いていると気づかぬうちにこのレンジ感が標準になってくるのは何とも不思議なこと。この後に現行のトールボーイなどを聴くとダブダブの付帯音だらけに感じるなんてこともあったりします。
以前も書いたことがありますが、”SP耳”という言葉を聞いたことがあって、SP盤を聴いていると自分のなかで脳内補正がかかって、あたかもイコライゼーションされたように、このカマボコ特性がニュートラルなバランスに聴こえてくるものです。
三ケ月ほど前のエントリーでアップした音源を再掲しますので皆さんのオーディオシステムで聴いてみて下さい。自宅のSP再生システムで録ったものです。
Sinfonia (Arioso) (Mvt. 1) from Cantata BWV 156, arranged for Cello & Piano Played by Maurice Maréchal (Cello); René Herbin (Piano)
Columbia - Matrix No.: M- 202762 / J-5549

画像クリック→▶で再生します(Sound Cloud AIによる著作権フリー確認済)
Phono Equalizer : SV-EQ1616D
これが一番いい音と申し上げるつもりはありません。ただこれも良い音。言い換えれば機器の数だけ良い音がある…適した聴き方があるという事かもしれません。
「エージングされるのは機器だけでない。我々の耳と感性も次第に音に寄り添っていくのだ」…改めて今日この言葉をかみしめているところです。