メーカーに人あり、アンプに歴史あり
2025年 01月 08日
そんななか、今日は私も初めて見るエレキットのTU-898の入荷検査をさせて頂きました。


早速測定してみると非常に特徴ある設計であることが分かりました。300Bのプレート電圧(実効値)はプレート330V-カソード50V=280Vと低め。プレート電流も50V÷910Ω=55mAと低く、300Bのプレート損失40Wから考えると50%以下の超安全設計といえます。個体的な劣化でなく、マニュアルにもその通りの定格値が記載されていたので間違いではありません。
さらにゲインを測定していると13dB(4.5倍弱)という値で、一般的は真空管パワーアンプのゲインである25~27dB(20倍前後)と比較して極めて低く設定されていることも分かりました。公称最大出力6Wを得るために2V近い入力が必要という計算になります。
真空管アンプユーザーにはチャンデバで帯域分割を行い、それぞれの帯域に最適なアンプを用意して積極的に音作りをされる方が多くいらっしゃいます。よく低域は多極管PP, 中高域は三極管シングルで、それぞれのアンプの特徴を活かす使い方をお見受けする訳ですが、そんな中でも苦労するのが中高域のアンプ選びです。
特に高域がコンプレッションドライバー + ホーンの超高能率システムの場合、ウーハーの能率は90dB(台)であるのに対してドライバーは110dB(以上)というケースも決して珍しいものではありません。帯域間で20dB以上の能率差があるということはウーハーに対してドライバーの出力は1/10以下で良いという計算になり、実際に運用する際には中高域のレベルを大幅に絞る必要があります。
私もこのアンプの設計者さんのことは全く存じませんが、もし今インタビューできるのであれば最初に”ひょっとしてマルチアンプユースを意識されました?”と伺うだろうと思います。
もちろんTU-898がマルチ専用ということはありません。現在”プリの音量を上げられずに難儀している”という方にはむしろ最適なパワーアンプということも言えるでしょう。一つ言えることは、メーカーの歴史が長く開発担当や設計者が変わることで製品フィロソフィーも大きく変わるんだな、ということです。
メーカーに人あり、アンプに歴史あり…この製品のバトンを受け取って下さる人がどんな使い方をして下さるかは全く分かりませんが、いまから30年近く前に或る強い想いを以てこのアンプを設計した人がいたという事も何となく分かって頂きたいなと思いつつ、その音を聴かせていただいた今日でした。