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或る人生のひと幕

音楽には様々なカテゴリーがありますが、ジャズほど人としての生きざまと作品(演奏)が重ね合わされることが多いジャンルはないように思います。その代表格の一人がChet Baker(チェット・べイカー)かもしれません。

今日はその一つのサンプルを提示します。
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このインパクトのあるジャケットをみて”これがチェット・ベイカー?”と思われたかもしれません。
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ラジオ・フランスが録音したパリでの貴重な2ヶ所の音源。1983年,84年の音源を180g重量盤LP (3枚組) に収録したものです。

チェット・ベイカーといえばまず思い浮かぶのがこのイメージ。
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紅顔の美青年と言っても良いチェットの1956年(オリジナルの10インチは54年)の作品。華奢で儚さすら感じるヴォーカルと均整のとれた美しいトランペットの音色こそが彼のイメージであり、ウエストコースト・ジャズを代表する名作と言われる所以です。

かの村上春樹さんはチェットをこんな風に評しています。
「チェット・ベイカーの音楽には、紛れもない“青春”の匂いがする。ジャズシーンに名を残したミュージシャンは数多いけれど“青春”というものの息吹をこれほどまで鮮やかに感じさせる人が他にいつだろうか?」

…多くのジャズファンにとってのチェットのイメージとは大きく異なる冒頭のジャケット写真に30年近い時間の経過以上の隔たりを感じた方も多いでしょう。それもその筈、この2枚の写真の間に起こった壮絶といってもいい彼の人生は安易に語りつくせないものがあるからです。

1950年代末にマリファナの不法所持で逮捕。1960年代からヘロインに溺れドラッグ絡みのトラブルを頻繁に起こし、アメリカや公演先のイタリアなど複数の国で逮捕,服役。そして1970年にはドラッグが原因の喧嘩で前歯を折られトランペットが吹けなくなり、生活保護を受けながら生活した後、1973年にはディジー・ガレスピーの尽力により復活。拠点を主にヨーロッパに移し活動した後、1988年にオランダで原因不明の転落死という悲しい結末を迎えました。

亡くなる僅か数年前のライブの際の、深く刻まれた皺と疲弊した表情に単なる年月の隔たり以上の何かを感じるのは私だけではない筈です。そして更にこの”Live In Paris”で聴けるチェットの弱々しく悲しいヴォーカルと対照的に清冽な彼のトランペットの音色には、人の栄光と挫折、そしてその間の葛藤を深く感じざるを得ません。

誰しもが若き頃、未来を善きものとして夢を抱き、その結果さまざまな艱難を得ながらも生きていく…その過程と結果をこのライブアルバムは示しているのかもしれません。生々しく精緻な音の良さもチェットの悲しい人生をよりリアルに浮かび上がらせているようです。

ぜひ良いオーディオで聴いて頂きたい”或る人生のひと幕”です。


by audiokaleidoscope | 2024-12-01 23:59 | オーディオ

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