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返ってきた91B

今月末に控えた輸出製品の検品も佳境に入ってきました。私の担当はSV-S1616D / 300B仕様(115V, 橋本バージョン)。
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測定用の標準球を決めて各機台の特性に異常はないか、バラツキは基準値以下か、聴感上のノイズはないか、ゲインや最大出力は大丈夫か、入力ヴォリュームのギャングエラーはないか…さまざまな検査項目をクリアしないと出荷OKとはなりません。
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カップリングコンデンサーは客先指定のV-Cap。一個一万円を超える高級品で音調的には現代的なクリアネスとヴィンテージ的な薫りを併せ持った逸品。

出荷テストをしながらいつも思うのは、もしここで何らかの問題を自分が見逃したら、いまから6年前カナダから訪ねてきてくれたディーラーが言った「Made in Japanの品質が欲しい」という期待に応えられない、という強い想いです。

しかし時には思いもよらないことが起こるものです。
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このSV-91B / Western Electric 300B仕様は9月末に組立代行品として出荷したばかり。それが僅か二週間後にジャンクとしてC to Cに出品されるという”事件”が起こりました。

70万円以上の新品の組立代行品な訳ですから、初期不良であれば当然お客さんから作り手である私どもに何かしら連絡があるのが普通だと思うのですが、それもなし。謎が謎を呼ぶ展開のなかでよっぽど自分が落札しようかとも思ったのですが、それもフェアでないと逡巡していたところ、幸い知り合いの方が落として下さってアンプが一ヶ月ぶりに私どもに戻ってきました。
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これはその内部。祈るような気持で通電検査を開始します。どうして出荷前に問題を発見できなかったのだろう…そういう気持ちで測定器を立ち上げたのですが…異常は再現しません。出品画面には大きなノイズが出ると書かれていましたが、全くその兆候は現れません。

数時間に亘り連続通電しても問題が出ないので、購入者さんに異常が再現しない事を動画で報告したあと、この機台を組んだ職人さんに来ていただいて隅々まで再検証したうえで、予防保全策として可能性があるとすればここ、という箇所に手当してお返しすることにしました。

結果的に購入者さんの環境でも問題なく動いているということで、まずは一件落着というところですが、真空管アンプという特殊な代物をどうすれば安全に楽しく使って頂けるのか、最近いつもこのことを考えているような気がします。

フェイルセーフという言葉は、システムや装置が故障や誤動作を起こした場合でも、安全な状態を維持するように設計された仕組みや考え方を指すと思うのですが、残念ながらオーディオは作り手である私たちとお客さんの使い方が共に正鵠を得ないと結果が出ない協働作業のような側面があります。だからこそ不完全な自分であっても仕事の成果物である製品の品質には厳しくありたい、そんなことを感じながら今日も明日も自分と向かい合いながら製品と対峙しています。




by audiokaleidoscope | 2024-11-23 22:48 | オーディオ

SUNVALLEY audio公式ブログです。新製品情報,イベント情報などの新着情報のほか、真空管オーディオ愛好家の皆様に向けた耳寄り情報を発信して参ります。


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