今日はエレキットTU-8600R(300Bシングルパワーアンプ)のメインテンスレポートから始めましょう。これは2018年に当社から出荷した組立代行品ですがC to Cで別のユーザーさんが入手された個体です。Rchのハムが大きいという申し出+Arizona Cap.へもアップグレードの指示でした。
測定してみると確かにRchの残留ノイズが16.5mV / 8Ω程度という異常値。詳細に確認していくと半導体のリップルフィルターが死んでいることが分かりました。ここでお客さんに電話。状況を説明するとともにパーツ交換が必要ですが、大丈夫バッチリ直りますとお伝えします。

交換したパーツを赤矢印で示しています。コンベンショナルな真空管アンプではチョークコイルで交流分を除去するのが一般的ですが、エレキットでは各チャンネルにリップルフィルターを入れて対処しています。ダメージを受けたパーツを交換したところ見事ノイズが1/100以下に減少しました。

そしてArizonaへのアップグレード。この個体はオリジナルユーザーさんによってにカップリングが社外品に交換されていましたが、一ケ所イモハンダがあり信号レベルが安定しない問題があったのですが、Arizonaに替えて静特性も音質も一級品に生まれ変わった感じです。ちょっとしたことでアンプの音質はこんなに変わるんだ、という良いサンプルになったと思います。途中経過をお客さんと共有することでスムーズなメインテナンスが出来たと考えています。
そしてもう一台。SV-501SE / Western Electric 300B(1988)仕様です。2004年当社組立代行品で不具合は初段6BM8に振動を与えると大きなノイズが出るという申し出。当社でも軽く打診を加えるだけでゴンゴン, バリバリと大きなノイズが出るものの、測定上は異常なしという状況です。
大概こういう場合はハンダクラックが生じているものですが、内部を詳細に確認しつつ
竹ピンセットチェックを実施してもハンダ部分やパーツの劣化は見られません。別の6BM8でも状況が変わらないこと、電圧,波形的にも正常であることからソケットの酸化被膜(接触不良)を疑いました。その結果、著しい効果が認められエージングの結果もノイズも収束したため本日完了となった経緯の一部をレポートします。
こういうケースで厄介なのが”アンプには異常ありませんでした”と文字で説明してもニュアンスが伝わりにくいこと。そのため最近は進捗状況を動画で説明をして視覚的に理解を深めていただくようにしています。これが効果絶大でリアルに状況の共有が出来てお客さんにも好評です。
その一部を画像で切り出してみました。

いろいろ喋りながら片手でスマホを持って録るのは結構大変ですが、まず真空管単体の検査がOKであることをお伝えします。

原因が6BM8ソケット内部の酸化被膜である可能性が高いことから接点洗浄を丹念に行い、大きな効果があったことを説明します。

そのうえでWestern Electric 300Bのプレート電流が規定値で安定していることを確認していただきます。

そして実際に動画上で信号を入れてサイン波入力の音を聴いて頂きます。

シャーシ内部が異常ない状態もみて頂きました。

続いて測定の実況中継。定格出力8V(=8W)のところ8.8V(=9.7W)まで出ていることを説明します。

そのうえで敢えて入力オーバー状態の歪み波形もみていただいて、三極管シングルならではのソフトディストーションを確認いただきました。この感じは文字ではなかなか伝わりません。

一昼夜連続通電を行い、今朝段階でノイズが再現しないことを確認したのち、報告書を作成て完了画像を添付して一件落着。20年経ってもまだまだこれから活躍できる良い状態なって気分爽快です。これからも必要に応じて修理実況中継をやっていけたらと思っています。