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”釈根灌枝”の教え

勘違いや思い込みが判断を曇らせることは誰にでもあります。特に冷静さを失ってチンチンになると余計に遠回りになることも。結果的には”なあんだ!”ということが大半で、今日はそんなことが続きました。反省も含めて記録しておこうと思います。

最初はSV-S1616D / EL34仕様。
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この個体は少し前に組立代行で納品したものです。職人さんが組み立てたものを私が追認したうえでエージングを行い測定してから出荷するので不良は基本的には無い筈ですが、納品先のお客さんから”片側から音が出ない”という連絡。

”そんな筈は…”とは思いながら一旦アンプを戻していただいて再検査すると当社環境では異常なし。大丈夫、問題ありませんとお伝えして再納品したのですが、やっぱりダメ。お客さん曰く”真空管を左右入れ替えてもCDプレーヤーを替えてもケーブルを替えてもスピーカーを替えてもやっぱり片側から音が出ない”と仰います。

四の五の言っても仕方ないので、機台交換を申し出て別の職人さんに新たに機台を組立ていただき、いつも以上に念入りに出荷検査をやって再出荷したのが先週でした。それが!やっぱりダメじゃないかという電話がかかってきました。

不思議なのはこのお客さんが同じS1616Dの300B仕様もお持ちで、そちらは全く問題ないというご指摘。電気的には説明がつかない事象に頭を抱えていたのですが、これ以上考えていても埒が開かないので、片道3時間半かけてでも現地に伺うしかないと覚悟を決め、今日訪問の申し出をしたところ、”実はEL34の挿入が甘かったみたいで…ちゃんと鳴るようになりました”と伺いホッとしたという顛末でした。

4ピンの300Bよりも挿入圧が高い8ピンのEL34。S1616Dはサブシャーシで出力管が落とし込んであるので、目視で根元まで挿入されているか否かの判定ができなかったのかもしれません。バージンソケットで固めということもあったのでしょう。今後は”真空管はちゃんと挿さってますか?”の確認が必要なことを痛感しました。

次の事例はReference35です。片chの高域側から音が出ないという連絡でした。新品で通電確認をしなかったバチがあたったかと思ったのですが、リモートで色々と試していただいたところ、HF(高域)とLF(低域)をジャンパーしているプレートの締め込み不足であることが分かりました。
”釈根灌枝”の教え_b0350085_00184534.jpg
バナナプラグの場合はターミナル中央にプラグを挿入するだけなので締め込みさえ強固にしていれば問題はありませんが、今回はYラグのケーブルでしたので、構造的にはプレートとケーブルを共締めする形になります。

Yラグは締めたつもりでも案外 面で締まらず点接続になっている場合があります。高級ケーブルで重要のある極太ケーブルではケーブルの重量も相まって単に引っ掛かっている状態になっている場合も散見されます。今回もそのパターンだったようで、別のバナナケーブルで問題なく音が出たというケースでした。皆さんのスピーカーケーブルも改めて締めてみたら結構緩んでた…なんてことがあるかもしれません。

最後はSV-18D + オートフォーマーの事例。
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OTLアンプは内部抵抗の低い出力管をパラにしてインピーダンスを下げることで出力トランスを排除してスピーカーと直結できるという形式。70年代頃には理想真空管アンプとして結構流行ったのですが、現実的には最適負荷が100Ω前後で8Ωスピーカーに接続するとパワーロスが生じるケースが殆どでした。

このSV-18Dでも単体では数Wですが、写真右側のオートフォーマー(マッチングトランス)を介することで最適負荷環境が構築され最大出力が3倍以上に増えるというメリットがあるのですが、今回伺ったのは ”音が歪っぽい”というお話でした。アイドリング電流調整はOK, その他の電圧に関しても大きな問題はなさそうでしたので、何を確認いただこうか…と思案していたところ”オートフォーマーの極性が逆でした”という連絡を頂いて一件落着しました。アンプ側に8Ωが負荷され、スピーカー側に100Ωが繋がれば歪むのは理屈通りです。

以上のように想定外な事象が発生した時に私たちはどうしても冷静さを失って客観的に物事を観る(診る)ことが出来なくなります。私もアンプの測定結果がおかしい時、自分を疑うことを忘れアンプのせいにしがちです、よくよく確認したら測定器との接続が間違っていて頭ポリポリなんてことは日常茶飯事です。

過去の失敗経験から申し上げると、”なんかヘンだぞ…”という場合は一旦ご破算、つまり一旦システムをバラシて頭を冷やしてから再接続する、真空管アンプの場合はタマを全部挿し直してみるといったような基本的な所作に立ち返ることが極めて重要な気がします。

”デンキは嘘つかない”は真実。中国の思想書「淮南子」に”釈根灌枝”(しゃくこんかんし)という言葉が出てきます。「根を切り捨てて枝に水を灌ぐ」という意味で本質を見失うことへの戒めの意な訳ですが、私のようにいつも間違っていると逆に”ちょっと待てよ”という自動ブレーキがかかる癖になっている気もします。

なにごとも経験。大いに勘違いして次の糧になれば無意味ということは全くありません。失敗の数だけ成長のチャンスありと考えれば良いのかもしれませんね。


by audiokaleidoscope | 2024-11-06 23:59 | オーディオ

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