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改めて問うNFBありとなし

真空管アンプの音質について深く知りたいという方が必ず出会うだろうNFB(負帰還)というワード。

今日滋賀からいらっしゃったYさんもそんな一人。Yさんご所有のSV-S1616D / Western Electric 300B仕様 (NFB=6dB)を持ち込まれて、当社デモ機(実験のため暫定的に無帰還化)と比較試聴をした結果をレポートします。普通こんなことをお客さんと一緒に実験するオーディオ屋はないですよね(笑)。
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外観は全く同じSV-S1616D / 300B仕様。左はYさん所有のNFB=6dB仕様。右は当社デモ機(無帰還に変更)です。実験の正確性を高めるため、真空管はすべてYさん所有球を使いました。

NFBについては以前のエントリーを参考にして下さい。

敢えて言えばNFBは定量的(測定上)は良い事づくめ、一方で定性的(聴感上)には逆効果となる場合もある”両刃の剣”であることを理解する必要があります。

メリット
①周波数特性の改善
②歪率の改善
③ノイズの低減

デメリット
①ゲインの低下
②安定度の低下(位相回転による発振リスク)
③過度なNFBによる音質の低下(聴感上の鮮度感の低下)
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負帰還のイメージ

この図は以前のエントリーの再掲ですが、NFBの有無によって発生した差異を示しています。見かけ上の周波数特性が広帯域化された代わりにゲインが下がっていることを理解いただけるでしょうか。
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SV-S1616D / 300B仕様におけるNFBの実際

水色に塗った部分がNFB経路です。SV-S1616DではNF巻線をもった特注出力トランスを採用していますが、出力トランス二次側の最も外側のタップから簡易的にNFBを返す方法が一般的です。上図のNFB抵抗値はSV-S1616D / 300B仕様固有の決定値で汎用性はありませんので注意が必要です。

肝心のNFB=6dBと無帰還の音質上の差異ですが、聴けば誰でも分かる違いがあります。Yさんと私の共通の印象をまとめると

無帰還
①音の立ち上がりの良さ
②ややハイ上がりな印象
③シビランス(子音)感の強調

NFB=6dB

①滑らかで湿度感のある音
②スピード感(鮮度感)の低下
③聴感上の高域の低下

というような感覚でした。測定的にはフラットネスが高まった筈のNFBによって無帰還よりも中高域もレスポンスが低下して聴こえたのは何とも皮肉ですが、実はこれがオーディオの真実。測定結果は聴感と一致しないというファクトを如実に示しています。

そして更に重要なのはNFBをかければ良いとか無ければ良いという一元的なものでなく、本来はシステム全体のバランスによって最適化されるべきものであることです。しかし、それが現実的でないことから一般的なターゲットとなったのが三極管シングルアンプで3dB, 多極管シングルで6dBという値です。いわば最大公約数的な帰結といっても良いでしょう。結果的にYさんは無帰還の良さ, NFB=6dBの良さを共に認めつつ、NFB=3dBへの仕様変更を決められました。

改めて本稿の冒頭で引用したエントリーで書いたことを記します。

「たとえ話になりますが無帰還=”スッピン”と言うとイメージが湧きやすいかもしれません。少々下世話ですがスッピンでも美しい女性は確かに魅力的ですし、真空管アンプでいえば素材感(真空管の持ち味)を一番素直に見せてくれるのが無帰還であることに異論はありません。しかしながらこの数十年でオーディオ(特にスピーカー)は大きく様変わりしました。1970年代までの100dB/w/mに迫る高能率スピーカーならまだしも現代の低インピーダンス/低能率スピーカーでは無帰還アンプの内部抵抗の高さ(ダンピングファクターの低さ)が最大の弱点になってしまうケースも残念ながら少なくないのです。

1937年にWestern ElectricとAT&Tが設立したベル研(Bell Lab.)のH.S.Blackが発表したNFB理論によってアンプの静特性は飛躍的に向上しました。そして1947年Wireless World誌(UK)に発表されたウイリアムソン・アンプが一世を風靡したことは多くの方の知るところです。しかし特効薬ほど副作用も強いという事実…帰還を掛けることで測定上の歪みを減らし広帯域化が可能となる一方、過重なNFBによって音の鮮度や生気が失われ曇った音質になるという事実は如何に定量と定性が一致しないかということを如実に示しています。

私どもで言えば軽めのNFBを掛けるのが流儀。それぞれの出力管の個性(持ち味)をしっかりと際立させつつ適度なNFBによって音のキメを整えスピーカーのドライブ力を担保することを旨としています。料理で言えばNFBは最後の”味の素ひと振り”的に使うのが粋でありNFBに頼ったプアな設計は決してしない…それが開発者としての良識だと考えています。」

さて皆さんはどう考えられるでしょうか。JB-320LMIIではこんな機能を持たせています。これも一つのソリューションといえましょう。
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1=無帰還, 2=3dB, 3=6dBをマニュアルで選択できるようにしたのがJB-320LM II。その昔このような手法はなかった現代の真空管アンプ(完成品のみ)です。
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対して昔ながらのSV-S1616D。自分で選び自分で作るキットベースの製品です。NFB以上に、どうオーディオと向かい合うかという大きな選択がここにもあることを示しています。


by audiokaleidoscope | 2024-10-16 23:59 | オーディオ

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