定在波を味方に
2024年 10月 14日
この手の相談は実はとても多いのです。例えば知り合いが家で鳴らしていたスピーカーの音がとても気に入って、自分も同じ物を手に入れたのに全く同じ感じで鳴ってくれない…というようなお話です。これにはリスニング環境の”定在波”が大きく関係しています。定在波によってリスニングポイントが特定の帯域の”山”あるいは”谷”に入っていることが推定される事例です。

これはスピーカーから放射された音が私たちの耳に届くまでに、直接音だけでなくリスニングルーム固有の反射波が含まれていることを模式的に示しています。これまでFM受信におけるマルチパスの弊害について何度か触れてきましたが、実は私たちのリスニングルームのなかはマルチパスの嵐であるということもいえる訳です。
私たちが閉じた多面体の空間内で音楽を聴く以上、定在波の影響から逃れることは不可能です。であればその定在波を味方につければ良いという考え方も出来ます。具体的には聴く場所を変えるか、スピーカーの位置とくに背後の壁面との距離を調節してリスニングポイントで最も心地よく聴こえるようにセッティングを変更してみることが非常に有効です。またスピーカーの高さ管理、言い換えればスピーカーの中高域の発音源と耳の位置関係によっても聴こえ方が大きく変わってくる筈です。
先日のL26の方のリスニング環境を例にとってみると床は前面フローリングで天井と床面の間に発生する定在波はかなり多めであったと推定されます。他方音がモコモコにならず明瞭性を失っていなかったのは壁面が漆喰で適度に吸音されていたからであると考えることが出来ます。
よくスピーカーの周波数特性の数字やグラフからこのスピーカーは高域が伸びているとか低域が良く出る(筈だ)と考えがちですが、それは無響室での定在波のない環境における測定結果であって、私たちのリスニングルームでの鳴り方とか相当程度の差異があるということを理解する必要があります。
ライブハウスで、FOH(PA卓のある場所)では問題なくてもある場所ではベースがほとんど聴こえなかったとか、或る場所ではヴォーカルが不明瞭で聞き取れなかったというような問題がよく起こります。厳密に言えば同じ空間内であっても場所が違えば音のバランスは大きく変わってくるという事を知ることも重要です。

これが現実なら、このブ―ミングとディップを巧く利用して(聴く側の味方にして)、自分が心地よく聴けるようにするほかありません。具体的に言えばスピーカーから放射され回折した低音が背後の壁に当たって跳ね返って耳に届く際に打ち消さず、プラスに効くようにスピーカーの位置を変えてみる、あるいはリスニングポイントを前後させてみて帯域バランスの変化を知る、もっとドラスティックにやるなら床にラグを敷いてみるとか絨毯を変えてみて天井と床の間の発生する定在波のピークとディップが発生する周波数をコントロールしてみる...やれることは沢山ある筈です。
オーディオはリニアでなくてはならない。これは事実でありながら現実には私たちは空間のノンリニアも含めて聴いている訳です。であれば部屋の固有の響きを味方にしない方法はありません。