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真の周波数特性

今日は基本的に皆さんが知ることのない(通常はメーカーが出すことがない)、真空管アンプの周波数特性をお見せしたいと思います。

今日公表するデータは組立代行品出荷時に社内の記録として保管したデータを片対数グラフに変換したもので、すべて全く修正していない真の周波数特性です。

よくカタログで”周波数特性 20Hz~20kHz”などと記載されていますが、これは規格上の-3dBポイントを示しているだけで、アンプの性能や実態を評価する資料にはなりません。何故なら最も音質に影響を与えるのは”可聴帯域内の振舞い”であり、それこそがアンプの個性(キャラクター)といえるものだからです。

では実際に見ていきます、当社代表機種の周波数特性です。
真の周波数特性_b0350085_23475073.jpg
SV-S1616D / KT150仕様

真の周波数特性_b0350085_23475000.jpg
SV-S1616D / PSVANE WE300B仕様

この二機種で大きな差異がないのは基本プラットフォームが共通であり、出力トランスが同一であることが大きく影響していることが要因です。若干300Bの高域側が”なで肩”であることに注目して下さい。

次はプッシュプルにおける違いを示します。これこそが多極管アンプと三極管アンプの音の違いといってもよい、大きな差異が生じています。
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SV-P1616D / KT170仕様
真の周波数特性_b0350085_23475060.jpg
SV-P1616D / Western Electric 300B仕様

ここまで違うものなんだ…と目から鱗という方も多いと思います。KT170仕様の方は超フラットであるのに対し300B仕様は上下端とも自然にロールオフしています。このロールオフ具合が実はヴォイシングチャート上のプロット位置と深い関係にあり、有り体にいえば私たちはフラットレスポンスのアンプほど右上(シャープ&クール), ロールオフが大きいほど左下(ソフト&ウォーム)に感じる傾向があり、それが周波数特性と見事に符合しています。

次は送信管アンプです。
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SV-S1628D / 845仕様
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SV-S1628D / 211仕様

この2つのデータは同一機台で真空管を二種類納品した際の取得データですので、かなり近似していますが典型的な三極管アンプの周波数特性に一致しています。ただ300Bより高域側が”いかり肩”であることに注目して下さい。このケースではPSVANE WE211が通常の211よりも高域が伸びていることで、通常の211はもう少しロールオフポイントが下に出ることが多いことを付記しておきます。

続いてはSV-8800SEを見てみます。
真の周波数特性_b0350085_23475049.jpg
SV-8800SE / KT170仕様

ここで注目いただきたいのは上のSV-P1616D / KT170仕様との差です。基本的に見事なフラットレスポンスですが、P1616Dは下側が10Hzまでフラットであるのに対し、8800SEは上側が100kHz(以上)までフラットで、実際は200kHz以上まで伸びていることです。

音調としてP1616Dの方がチャート上で右上に来るのは、8800SEの方が上下端ともなだらかに(敢えていえば自然に)ロールオフしていることが要因といっても良いと思います。このロールオフ具合が敏感に聴感に影響を与えるのは上述の通りですが、聴感上の密度感を与えるのが信号に重畳しているDC分をフィルタリングする”カップリングコンデンサー”です。特に多極管アンプに効果大と感じる方が多いのも、この周波数特性の差が大きく影響していると考えて良いでしょう。

最後にSV-91Bです。
真の周波数特性_b0350085_23475174.jpg
SV-91B / Western Electric 300B仕様

20Hzより少し上、実際に私たちがいちばん低音と感じる35Hz辺りが少し盛り上がっているのが、当社アンプの特徴の一つと言えるかもしれませんが、アンプのヴォイシング(音決め)で大切なのは数値的にどこまで伸ばすかでなく、全体のバランスです。

仮に音の”やじろべえ”があるとすれば中心は何Hzになるでしょうか?
一般にオーディオの世界では1kHzを基準に考えますし、私どもも測定上は多くの基準点を1kHzに置いています。他方、音づくりに関して言えば仮に人間が20Hz~20kHzを知覚できるとして、20Hzから5オクターブ上は640Hz, 20kHzから5オクターブ下は625Hzですので、個人的に音の重心は600Hz~650Hzにあると考えて音作りをしています。

オーディオ業界が真空管から半導体の時代になりフラットが当たり前になりました。しかしギターで使われる木材を例に挙げるまでもなく、メイプルのようにクリアで明るい音色もあれば、マホガニーのように暖かく豊かな音色のアンプがあっても良いと思いますし、あるべきだと考えています。

真空管アンプの豊かな楽器性は、つまるところその素材がもっている固有の響き(ねいろ)をいかにそのまま引き出すかによって可能になる筈。私どもは常に”良い特性”よりも”鳴りの良い”アンプを目指しています。


by audiokaleidoscope | 2024-10-01 23:59 | オーディオ

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