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”バスタブ曲線”の話

今日は最初にグラフをご覧いただきたいと思います。
”バスタブ曲線”の話_b0350085_03141177.jpg
これは一般に「バスタブ曲線」と言われるもので「故障率曲線」という名でも知られているものです。私が描いたのは単なる増減イメージでY軸の故障率はあくまで時間軸とに関係における相対的なものと評価して下さい。

これは装置, 機械あるいはパーツなどで発生する不具合(率)と時間の経過の関係を示したもので、簡単に言えば”不具合は最初に起こり、その後長く安定したのち、少しづつ劣化していくことで故障率が上がる”ことを定量化しています。そのグラフの形状がお風呂の浴槽に似ていることからバスタブと呼ばれている訳です。

一般的にバスタブ曲線は「初期故障期」,「偶発故障期」, 「摩耗故障期 」に分けられますが、これを真空管アンプに当てはめて青字で「過渡期」, 「安定期」, 「劣化期」と言い換えてみました。

私が所期故障期を”過渡期”としたのは、初期不良の発生ともう一つ、”使用初期に起こる過渡的な変化”も含めたかったからです。つまり真空管を替えて最初はノイズ的に安定しなかったものが適切なエージング期間を経て安定すると言った現象もバスタブに合致しますし、本来の性能が発揮されるまでには一定の枯化時間が必要だからです。

本来このグラフは機能に紐づくもので、”音が安定する”というような定性的(官能的)な評価について言及したものではありませんが、オーディオなど感覚的(心理的)評価の対象物は機械的故障と同じ位、感覚的な違和感の方が製品評価に与える影響が大きい場合があるのが独特といえるかもしれません。

このグラフを見て、使う側の皆さんとしては”安定期”がどのくらいか…がとても気になる訳で、よく私どもにも ”このタマ何年もちますか?”と訊かれて回答に窮することがあります。製品の品質は、その”モノ”単独で決定される訳ではなく環境品質、つまり真空管であれば動作させる電圧, 流れる電流, 動作温度など様々な要因によって変化するからです。

毎日舗装された道路を低速(定速)で走るのと、砂利道を高速で走るのでは恐らくタイヤの寿命は何倍も変わってくるでしょう。そしてタイヤだけでなく車全体の劣化にも大きな違いが発生するに違いありません。真空管の寿命で言えば、相対的に整流管 < 出力管 < 電圧増幅管ということは言えますし、イメージ的に整流管 3000時間, 出力管 5000時間, 電圧増幅管 10000時間等と言われたりする場合もありますが、これもアンプの設計と使い方次第で何倍も変わります。

以前某社のKT88固定バイアスのシングルでメーカー指定の調整値60mAのところ80mA以上ものプレート電流を流してアンプ本体が壊れた方から相談を受けたことがあります。なぜそんな無謀なことを?…と伺うとKT88のプレート損失は35Wで、実測したプレート電圧が約350Vだったので100mAまでは大丈夫だろうと思ったとのこと。これは”タコメーターのレッドゾーンまで振り込まなければどんな回し方をしても問題ないでしょう”と同じ極めて微視的な考え方です。

真空管アンプでいえば電源トランスやチョークコイルに流せる電流値の上限が必ずありますし、それを踏まえてメーカーが指定する値がある訳ですから、お客さんが全体のバランスを無視して無謀な使い方をした結果、”これは初期不良だ”と言われても此方は立つ瀬がありません。裏返せば適切に慣らしを行い、適切に(大切に)使って頂ければ、不良の発生率も大幅に下がるでしょうし、製品の寿命は驚くほど長くなる筈です。シンプルな真空管アンプなどはその代表例かもしれません。

更に言えば安定期を伸ばす最大のポイントは適時適切なメインテナンスを実施することです。日本の車が長寿命なのは車検制度のお陰だと伺ったことがありますが、真空管アンプでも5年, せめて10年にいちどオーバーホールすれば何十年も安定して使える筈です。事実、当社で買取らせていただくアンプは約半数が販売から15年以上経過しているものですが、メインテナンスで幾つかのポイントをクリアさえすれば、基本的に新品と同じ位の安定期をプラスすることが可能です。

要はバスタブの底を伸ばすためには作り手の品質管理が重要なのはもちろん、使い手である皆さんの愛情と智慧がとても大切で、”劣化期”を迎える前に何らかの対処を行うことが極めて重要です、というお話でした。


by audiokaleidoscope | 2024-09-30 23:59 | オーディオ

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