基本的に自社製品のメンテしかしませんが、時々社外品とくにヴィンテージアンプのメンテ依頼をいただくことがあります。現行製品の修理と違い一点一様的対処が必要となるケースが多く、依頼主さんと受け手である私どもの間に信頼関係がないと成り立たない仕事です。
元当社スタッフで現在独立して修理業を営んでいる優秀な外注に依頼していますが、今回のお題は
ALTEC 1569a(EL34パラppモノラルパワーアンプ)です。
1950年代に設計された業務用アンプでALTECのシアター系スピーカーと一緒に使っている方が結構多いアンプですが、現代の家庭用アンプとはかなり勝手が違います。
この写真は友人のSNSから拝借したオリジナル状態の1569aの内部ですが、青の矢印で示したポテンショメータでバイアス調整を行う回路になっています。
1569aはEL34パラppですから固定バイアスであればポテンショは本来4個あるか、2個+Upper / Lowerそれぞれのバランス調整できるのが普通ですが、ここが当時のアンプの大らかさと言いますか、4本のグリッドバイアスを1個のポテンショでまとめて調整する回路になっているところが凄いです。言い換えれば4本のEL34のアイドリング電流をラフには調整できても厳密にはアジャストできない回路になっているのです。
そんな背景もあり、この時代のシアターアンプは極端にIpを下げて調整し、音質よりも壊れないことを優先しているケースがかなり多く見受けられます。出来れば或る程度Ipを流した方が音質的には好ましいのですが、EL34は発熱が大きい(180℃程度まで上がる)ことで熱膨張を出自とした
G-Kを起こしやすいことでも知られており、どのポイントで調整するかがノウハウというか腕の見せ所といえます。
この1569aは四年半前にいちどオーバーホールさせていただいていました。電源部の電解コンデンサーがほぼ容量抜けしていたので、当時外観を温存する目的で内部に蛇の目基板で同定数のB電源系回路を再構築したことが一枚目の写真にも見てとれます。
本当は受け手としては個別に4本のバイアス調整が出来るように改造するのが一番安心なのですが、私どものポリシーとして可能な限りオリジナル性を毀損せずにメインテナンスする(モノは直しても音は変えない)ことを最優先しています。唯一の変更点として前回、保護回路的にFUSE抵抗を追加させていただきました。
1569aは原回路的にUpper側の2本とLower側で対となっている2本の平衡度が崩れると片側の1本に電流が偏って流れ過電流と発熱でG-K故障のリスクが格段に高まります。そのため2020年のメンテ時に万一G-Kが起こっても最悪トランスにダメージが及ばないようにFUSE抵抗を入れていた訳ですが、今回それが奏功して幸いアンプにダメ―ジはありませんでした。G-KによってEL34内部が完全に短絡状態になっていたので、スピーカーからは大きなバリバリノイズが出ていたと思われますが、G-Kを起こしたEL34とFUSE抵抗を交換し、EL34四本のバランスを取り直して数十時間エージングを行って完了という状況まで来ました。
アンプの修理をさせていただいて常々思うのは、一番大事なのはどういう修理方針を立案するかです。
対症療法的に問題を除去することは勿論必要ですが、予後の改善とPiPSモデル(製品の状態予測)管理が更に重要で、今回再修理ということでEL34の劣化を十分に見越せなかった私の方針管理が完全でなかったという反省もありますが、それでもアンプに対するダメージが最小限であったことが不幸中の幸いでした。