人気ブログランキング | 話題のタグを見る

遺るもの, 潰えるもの

今日のタイトル、「遺(のこ)る」という字と「潰(つい)える」という二つの文字ですが、”旁(つくり)”は同じなのに”偏(へん)”が違うだけで全く逆の意味です。語源的な知見に乏しい私にはその解説をする能力はありませんが、遺って(残って)いくものと潰えて(消えて)行くものの差は実は紙一重なのかも…と思ったりもします。

なぜこんなことを書くかといえば、今日帰宅してふと思い出したLaser Disc(レーザーディスク, 以下LD)というメディア、どれだけの方が覚えていてどれだけの方が今でも使っていらっしゃるでしょうか。
遺るもの, 潰えるもの_b0350085_00023659.jpg
LPと同じ直径30cmのLD。私が最初のLPプレーヤーを入手したのは80年代後半だったと思いますが、当時は”絵が出るLP”的な宣伝文句で市場を席捲したものでした。ただLDは市場では短命で、音声こそリニアPCMであったものの映像はアナログ(ダイレクトFM変調)であったため、ハイクラスのオーディオ / ヴィジュアルファンの期待に十分応えられたとはいえず、カラオケで活路を見出した時期もあったものの、やがてDVDにとって代わられた短命なメディアでした。

捨てられない性質(たち)の私は今でもハード / ソフトいずれも残しており、特にライブ盤を蒐集した時期がありましたので今でも沢山のソフトがラックで眠っています。とはいえ実際LDプレーヤーを回してみたのは10年以上ぶりでしょうか。
遺るもの, 潰えるもの_b0350085_00023773.jpg
これがそのうちの一枚。今でもオーディオフェア等で偶にCDがデモで使われることもある”Fourplay”のライブLDです。

いつ買ったか全く覚えていませんがたぶん94年か5年頃だったような気がします。当時は今のような大画面で観ていた訳ではなかったので特に気になりませんでしたが、改めて今日当時のLDプレーヤー(パイオニアのCDコンパチ機)で観てみると、正直ピントは来ていない、色の諧調表現は曖昧、黒は濃いグレーにしか見えない…といった感じでBlu-Rayに慣れてしまった今となっては残念ながら鑑賞に堪えるものではありませんでした。
遺るもの, 潰えるもの_b0350085_00023745.jpg
こうやって写真に撮るとなんとなく観られそうな感じに見えますが実際はガラケーで撮った写真のような画質です。レコード同様、裏返して全編鑑賞しましたがもういちど観るか…と訊かれると正直ノーという感じを禁じ得ないのは正直とても残念なことでした。

他方LDよりも半世紀近く前のLPが旧さを感じさせるどころか、最新のデジタル音源よりも聴いて心地よいと感じる人が少なくないのは何故なんだろう…と改めて考えてみると大変不思議な気がします。LPが当時”針が溝を走る”形式が或る意味必然であったの対し、LDは”新しさ”を求めた結果出てきた過渡的な規格であったことが一つの要因だったのかもしれません。

これは業界の方から以前伺ったことで裏付けはありませんが、実はLD登場まもない時期にDVDの規格化に向けた検討が既に始まっていたものの、市場に対しては常に”最新”、”最高性能”を標榜し続ける運命にある各メーカーはいずれLDが旧態化することが分かっていながら売り続けなければならない宿命にあったようです。

デジタルが世の中を大きく変えたのは音楽の世界だけではありませんが、こうして改めて考えてみると実は「新しいものは常に旧いものと隣り合わせの状態にある」のではないかという気がします。オーディオ雑誌を読まなくなって久しいですが、毎年いま頃から年末にかけて新製品ラッシュの時期。去年までフラッグシップだった新製品が、あっという間に旧製品になって気が付くとディスコンになっているのが普通の世の中です。

対して半世紀以上前から全く変わっていないシーラカンスのような真空管アンプやレコードの世界は、新しくない代わりに旧くもなりません。今後なにが遺っていって、なにが潰えていくのか、本当に人々が必要としているものは何なのか、たった30年まえのLDに隔世の念を禁じ得ない自分に改めて問いかけてみたい気持ちになりました。


by audiokaleidoscope | 2024-09-23 23:59 | オーディオ

SUNVALLEY audio公式ブログです。新製品情報,イベント情報などの新着情報のほか、真空管オーディオ愛好家の皆様に向けた耳寄り情報を発信して参ります。


by SUNVALLEY audio
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31