今日は一つの質問を想定してみましょう。それが「プリアンプはなぜ必要か?」という内容だとして、皆さんはどう回答されるでしょうか。まず歴史的背景を押さえておきたいと思います。
CD登場によって増幅器に求められる特性は大きく変化しました。CD以前すなわちアナログレコードの時代はカートリッジの出力電圧(MMで数mV, MCで0.数mV)をパワーアンプが適切に動作する電圧まで昇圧する必要がありました。そのためにフォノEQを内蔵したプリアンプは必要不可欠な存在だった訳です。
その後、CDの時代となりSONYとPHILIPSが協働して作成した「レッドブック」によってCDの規格(S/PDIF: SONY/PHILIPS DIGITAL INTERFACE)が策定され、フルビット時の出力は2Vと決まりました。MMカートリッジの出力電圧2mVとすればCDの2Vと単純比較して実に1000倍(60dB)の差異があります。電気的にはパワーアンプの入力電圧制限用可変抵抗(=入力アッテネータ)が装備されていれば、敢えて電圧増幅器(=プリアンプ)を置く必然性はありません。
そのような背景もあり、”プリアンプ不要論”が高まった時期がありました。ではCD登場後40年以上を経て何故プリアンプが存在し続けているのでしょうか。電気的にプリアンプが不要であればアッテネータ付き入力セレクターで十分な筈です。
今日はこのテーマに対する具体的事例となればいいなと思い、測定サンプルを用意してみました。具体的にはプリアンプ使用の電気的背反事項(デメリット)の有無確認を目的とします。
用意したのは2台のSV-Pre1616Dです。個体1(左)は現用機, 個体2(右)は出荷検査前の組立代行機です。比較の客観性を高めるために以下の条件設定をしておきましょう。
(環境)
・真空管の個体差で検査結果に差異が出ないよう、真空管ならびにダイオードモジュールは個体1搭載品を共用する
・検査結果に差異が出ないよう、電源は安定化し100.0V / 60Hzで行う。また測定に使用するケーブルは同一品を使用する
・負荷インピーダンスは10kΩとし、通常真空管アンプで想定される負荷インピーダンス50kΩ(以上)よりも厳しい条件とし、異常検出時の顕在化を容易にする
・測定時のヴォリューム位置は「最大」で行う
(測定項目)
・100mV入力下での出力電圧, 出力波形を監視する
・S/PDIF規格に定めるラインレベルの最大入力である2V(2000mV)入力下での出力電圧, 出力波形を監視する
・2V入力時の出力音を聴感で確認し、異常な高調波(歪み音)の有無を確認する
では早速データで見ていきましょう。
個体1:100mV入力時の出力電圧577mV(ゲイン15.2dB)。波形歪なし
個体1:2V入力時の出力電圧11.49V(ゲイン15.2dB)。波形歪なし
個体2:100mV入力時の出力電圧578mV(ゲイン15.2dB)。波形歪なし
個体2:2V入力時の出力電圧11.49V(ゲイン15.2dB)。波形歪なし
以上から導出される結論は、
フルビット信号が入力され、ヴォリュームが最大位置というあり得ない環境下でも増幅系に与える歪は一切ないことを改めて共有できればと考えます。
なお個体1/2とも2V入力時の聴感においても異常な高調波音は検出されませんでした。少なくとも電気的にはプリアンプが介在することで、入力信号のリニアリティを損なうものではないことは客観的事実です。
プリアンプを使うことで音楽の躍動感が増し、聴感上のダイナミックレンジが大幅に広がることをぜひ体感して頂ければと思います。
アンプの企画者として考えるのは、”ロー出し,ハイ受け”、つまりパワーアンプの入力インピーダンスをなるべく高い状態、言い換えればパワーアンプを理想に近い環境で動作させるためにプリアンプは必要欠くべからざるものと認識し、今後もその有用性を音を通じて感じていただけるよう、情報発信していきたいと思います。