”着る”と”装う”のちがい
2024年 08月 23日
私が社会人になった80年代終わり頃はバブルのピーク期ということもあり、今とは社会, 経済環境が大きく異なっていましたが、”着る”実用衣料と”装う”ファッション衣料は明確に分かれていました。
今でこそ実用衣料の世界では夏物と冬物の2シーズンで十分で、春物, 秋物(いわゆる”間い物”)が店頭に並ぶ期間は非常に短いですが、当時の洋服の世界では年間8~10のシーズンに分かれていて、例えば7月20日頃から”初秋もの”、つまり夏素材の秋色(ワイン, パープル, グレー等)の長袖を、8月20日頃からはウール, レザー等の”純冬もの”を店頭で”見せる”のが普通でした。当時のファッション業界は実用の先にある季節感の先取りや、装う楽しさを提案する仕事であると教えられたものですが、オーディオの世界にも似た側面があるような気がします。
一台何百万円という超高額品カテゴリーは私たちには無縁ですから横に置いておいたとしても、鳴っている(聞く)のと傾聴する(聴く)の違いにも似て、やはり趣味としてのオーディオには実用を超えた何かしらの魅力や、欲しくて仕方ない気持ちになるような魔力があって欲しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
我が家では今こんな状況です。夏休み前半につくった50BM8シングルとSV-91B(300Bシングル)。出力こそ2Wと8Wという差がありますが、同じ真空管アンプですし、同じように心地よく音楽を楽しむことが出来ます。ただ値段の事を言えば両者には約70倍の価格差があります。
オーディオに過剰な偶像性を求めるのは危険ですが、良い物を手にして初めて分かる満足感や使う歓びを伝えることも私たち提供側の責務の一つであることを感じた今日のニュースでした。本質的な価値を提供することで、使う人の目線が上がる、生きる歓びが高まる…ファッションもオーディオもそういう何かを持っているように思います。