私たちが聴くクラシック音源は今どこかのホールで演奏されているライブ放送もあれば、100年前のSP盤まで実に多岐に亘ります。音質的(オーディオ的)にいえば最新のイクイップメントで収録された音源が好まれる向きもありますが、一方で旧世代の演奏や音源を好む人たちも確かにいます。
過去の名指揮者や名うてのヴィルトゥオーゾ(達人)といわれる人たちの名演奏を旧盤に求めるだけでなく、”いまのクラシック録音は左右に音が散らばって演奏のコア(核心)が希薄”という不満もあるようです。今日はそんな人たちが集まって自然発生的にできた通称「旧クラ(ふるくら)の会」有志が集まって1930年代~1960年代までのアナログ盤を聴きました。
4タイトル計9枚を完奏する濃密な時間…。
ご存じバッハの無伴奏チェロ組曲(3枚組)。1, 2, 3, 6番は1938年, 4, 5番は1948年の録音です。もともとSP盤音源のLP化(フランス盤)だけに非常にナローでダイナミックレンジも広くありませんが、凝縮されたカザルスの神髄と重厚な演奏を満喫できます。
1963年録音, 1964年リリースのRCA Red Seal盤。サラサーテ:ツィゴイネルワイゼンOp.20, サン=サーンス:ハバネラOp.83, ショーソン:詩曲Op.25, ラヴェル:ツィガーヌ等を収録したエリック・フリードマン(Vn)+ロンドン交響楽団の演奏。60年前の録音とは思えない鮮度の超高音質盤で日本刀のような切れ味のヴァイオリンは必聴。
つづいての2タイトルは数年前には初リリースされた埋もれていた名演奏。
モーツァルト生誕200周年であった1956年のクレンペラー指揮によるライブ完全収録盤。特にDISC2のクララ・ハスキル(Pf)を迎えた27番は海賊盤等でファンには知られていましたが、このような形でリリースされたのは恐らくこれが初。ホール実況盤でありながら、クレンペラー/ハスキルが真近で演奏しているようなリアリズム。現代録音では決して聴けない屹立する音像が耳から離れない。
ストコスフキーと読響の唯一の共演盤(1965年)。当時83歳というのが信じられないほどのエネルギッシュな棒に震撼すら覚える演奏。通常の楽器配置と異なる”ストコスフキーレイアウト”、つまり後列ひな壇中央にチェロが横一列に並び、その後ろにコントラバスが同じく横一列に配置されたことも影響したかのような分厚い低域が印象的。若林駿介さんのワンポイント録音。
何時間かこれら過去の名演奏を当時の音で聴いたあと、現代録音を聴くと何だか薄く感じてしまうのはアナログのマジックでしょうか…モノ, ステレオというプラットフォームの差を超越した根の生えたような音楽とアナログ音源の存在感に圧倒された数時間でした。