オーディオに限らず製品には”取説”がつくのが普通です。なかには文庫本一冊分くらいの厚みのあるものもあって頭がクラクラした方もいらっしゃると思いますが、安全上かならず記載しなければならない事項や、発生しうるリスクについての注意喚起などを含み、販売側としていろいろと配慮すべき(記載すべき)事項があります。
オーディオ機器に関しては使い慣れている方にとっては説明書など不要という方も結構いらっしゃると思いますが、たとえば初めて真空管アンプを使う方はドキドキしながら説明書を読んで恐々通電したという方もいらっしゃることでしょう。そういう意味も含み取説はメーカーや販売者からお客さんへの最初のメッセージですから、実はとても大切なものなのです。
取説も実にさまざまで提供側のフィロソフィー(文化的側面)を垣間見ることが出来る場合があります。
私が印象に残っている取説のひとつがこれ。もう30年ちかく前でしょうか。
Nottingham Analogue Studioの最初期のSpace Deck(スペースデッキ)についていた取説。見事なポンチ絵と手書きのテキストが凄いインパクトです(注:いまのノッティンガム製品には輸入元が用意したすばらしい取説が付属しています)。
購入のきっかけは雑誌”管球王国”のノッティンガム社訪問記だったと思いますが、レンガ造りの平屋の普通の家のような工房で創始者トム・フレッチャーさんがヨレヨレの服を着て愛犬と一緒に取材に応えている様子をみて、そのいかにもイギリス的な職人気質に感じるものがありました。その昔、短期ながらも住んだイギリスにはこの取説に通じる何かが確かにあったのです。
その後、製品を入手して製品と同梱されていたこの取説をみて、懐かしいイギリスの雰囲気を思い出して嬉しかったと同時に、ノッティンガム社に感じていた雰囲気そのものだと思いました。これが今の日本製品だったら総叩きかもしれませんが、こういうものが許される土壌も素敵だと思いました。
ついでに、これは2001~2年ごろの当社VT-25シングルのキット組立説明書の一部をお見せします。この頃は全ての工程を独りでやっていた頃で、マニュアルもExcelで書いていました。決して立派なものではありませんが、今と変わらずトラブルが起きなかったのは、自分で実際に製作しながらお客さんと同じ目線になってマニュアルを書いていたからだと思います。
言い換えれば作り手からの情報だけでなく、同じ製作者の立場で”ここは要注意ですよ!”という目線で書いていたからかもしれません。
時は過ぎてこれは海外向けSV-S1628Dの実体図の一部。いまは専用の描画ソフト(.ai)で一流の外注さんに書いて頂いています。私のExcel版と比べると大きく進歩したものだなあと思いますが、大切なのは単なる見た目ではく安全に間違いなく組んでいただくための配慮と信愛の情という点であるという点は手書きもイラレも何も変わりません。