ニアフィールドで聴く女性ジャズVocal ~Supper Club編~
2024年 07月 20日
ところで最近のオーディオ界隈で少し変わったと感じるのは製品紹介のあり様です。私が若かりし頃は権威ある評論家の先生方が健筆を振るわれて、とても手の届かない夢のような高額機器をレビューするというのが一般的でした。気になる製品の試聴ページは折り曲げて、それこそ文章を粗方暗記するくらい何十回も読み耽ったものです。逆に言えばそれしか方法がなかった。
様子が変わったのは、ネットが普及しはじめたミレニアムから少し経った頃からででしょうか。それまでは雑誌一辺倒だったのが、検索という行為によって自分が欲しい情報が容易に入手できるようになり、2007年頃からは動画配信が加わり、今や仮想的に機器の音を聴くという行為もネット経由で出来るようになって、文字に頼らなくても機器の何たるかをある程度知ることができるようになりました。
その流れは音楽雑誌にも影響を及ぼしているようです。最近SNSで目にして興味をもったのが、人気ジャズシンガー、ウイリアムス浩子さんが雑誌”Jazz.in”でニーナ・シモンやアニタ・オデイなどのアーティストのLPを聴いてレビューするという記事。早速Jazz.inを入手して読んでみた訳ですが、自らの作品でなくジャズヴォーカルの巨人たちの名盤を聴いて感じたことを文字にするスタイルが斬新でした。
浩子さんが題材として取り上げていたのが、昨年から立ち上がった”Supper Club”レーベル。MUSIC BIRDパーソナリティ時代によく聴かせていただいたシリーズで、無限ともいえる女性ジャズヴォーカルから名盤を厳選してリリースされているので間違いがないというところが日本のジャズ愛好家の支持を集めているようです。私も当時収録で聴かせていただいたタイトルを手に入れてはいたのですが、今回浩子さんの記事に触発されてキングインターナショナルさんから何枚か未聴タイトルをお借りして聴かせていただく機会をいただきました。
その中から自分的にお奨めできるタイトルを幾つかご紹介できればと思います。オーディオ屋的視点も含めて忌憚ないところをお伝えできたらと思い、今回はいつものセッティングでなく超ニアフィールド環境を用意してみました。



個人的にお初のローラ・アルブライト。吐息まで感じる歌いぶりがややToo Muchともいえるが、これを求めている同好諸兄も多い筈…と思ったらもともとこの方は女優さんらしい。ザ・50年代のアメリカ的な感覚に満ちた一枚。おすすめ度★★★★☆。

いわずと知れた名盤。音もよいモノ盤。Vocalの質感に独特のざらっとしたテクスチャーがあり前に張り出す感覚が素晴らしく真空管アンプとのマッチングも非常に良い。モノクロ映画を観るようなイリュージョンに包まれる。おすすめ度★★★★★。


テープライクな音のステレオ盤。ベヴ・ケリーのVocalはリバーブ深めでやや懐かしめの音だが、トランペットの音がリアルで且つ曲によっては定位がLch,Rch,センターと動きジャズクラブのライブを彷彿するような録られかたをしているのがユニーク。おすすめ度★★★★☆。

ジャズを超えソウルフルなブルーススピリットを聴かせるニーナ・シモンはやや”通”な存在かもしれないが、ぜひ押さえてえおきたい存在。これはStereo盤でVocalはLch側、DrumsとPianoがRch側に定位し、それが逆にライブネスを高めている印象。Vocalはオンマイクで生々しく、Pianoは少し遠目の録音で奥行き感も素晴らしい。おすすめ度★★★★★。

Amazonリンクのアーティスト名がエラ・フィッツジェラルドなっているが誤り。曲により歌い方を変化させて聴かせる巧者。時代的に低域の明瞭度が低い音源が多いなか、今作はウッドベースの足取りが明確で心地よい。おすすめ度★★★★☆。


…一日でアルバム8枚フル試聴は大変かと思いましたが、気が付けばあっという間でとても楽しいひと時でした。感想はあくまで個人の見解ですがご参考になれば幸いです。
当社のお客さんでSupper Clubを全タイトル制覇してジャケットをオーディオルームにずらっと並べているという方がおられますが、その気持ち…とてもよくわかります(笑)。今後も注目したいレーベルですね!