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故障個所の特定プロセス(現地現物編)

私たちと顧客の関係性は単なる売り買いを超えた深く強い絆のようなもので、多くの場合いちどご縁が生まれるとずっとお付き合いが続きます。今日もそんな思いを新たにした一日でした。

日ごろ会うことは少なくても、何かあるとすぐ電話を頂けるというのは大変嬉しいこと。今回のケースは納品から15年以上になるSV-310とSV-38Tに関するご相談でした。
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スピーカーはSonus Faber(ソナス・ファベール)”Cremona”(クレモナ)最初期バージョン。工芸品的な手造り感あふれる非常に美しいスピーカーのひとつです。そのクレモナを永く支えてきたのがSV-310 + SV-38Tであった訳ですが、電話を頂いた時のお話では「しばらく聴いていなかったのですが、アンプの電源を入れても蚊のなくような音しか出ないんです…」とのこと。

こういう場合は距離にもよりますが現地現物がいちばん。とにかく実際モノを見て音を聴いて、必要あればアンプをお預かりすればいいので、久しぶりにお邪魔させて頂くことになりました。たいへん不躾ながらこういうことでもなければ再会できない事も多いので、逆にちょっと嬉しかったり…というと叱られるかもしれませんが。

そぼ降る雨のなかお邪魔して早速アンプに灯を入れてみると、確かに中低域から音が聴こえず、ツィ―ターだけ鳴っている感じ。それが左右chともなので、エレクトロニクス系の故障であればSV-38TがMONOであることから自ずとCDプレーヤーかプリが疑わしいという推論が成り立ちます。

そこでまずSV-310をバイパスし、アキュフェーズのCDプレーヤーとSV-38Tを直結しプレーヤー内蔵のデジタルボリュームで音量を上げ下げしても状況は同じ。しかしながらパワーアンプが同時期に同じ壊れ方をするかなあ…という気がしたので、お客さんが居間で使っておられるサブのアンプUnison ReserchのSimply Fourを借りて通電してみました。
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これがその時の状況。Simply Four単独で鳴らしてみたところ、まさかの同じ状況…ということはスピーカー故障?単なる結線の緩みとかケーブルの酸化要因もあるかと思ってSonusの背後に回ってもシングルワイヤリングでコンタクトも正常であることから、いよいよスピーカー由来の現象の可能性が高まったきました。

スピーカー故障の大きな要因は大きく二つ。一つはアンプからのDC漏洩、もう一つは過大入力です。

前者はアンプの故障あるいは誤動作によってスピーカーにDC(直流)が印加されスピーカーのボイスコイルを焼いてしまうケースですが、実は真空管アンプではOTLなど一部の特殊な回路を除いて、この不具合は起きません。なぜなら出力トランスによってアンプの増幅回路とスピーカーのボイスコイルは直流的に絶縁されているからです。

次に過大入力の場合は、仮に増幅系のトラブルで雷のようなノイズがスピーカーから出たとしても、多くの場合飛ぶのはツィ―ター側。つまりスピーカーの耐入力は多くの場合ツィ―ター側に制限を受けている場合が多いので、今回の事例のようにツィ―ターしか鳴っていないというのは増幅系由来の故障ではない可能性が高いということになります。

その他可能性があるすれば増幅系の発振ですが、これはメーカー製アンプでは除外していいでしょう。自作アンプなどで位相補正が巧くいっていっておらず可聴帯域外で発振する場合は大抵ツィ―ターが先に死にます。低域発振の場合はモーターボーディングといってウーハーが激しく前後にボコボコ動くので大抵事前に気づきます。

最後にダメ押しでスピーカーを替えてみたらどうなるか…ということで、日ごろSimply Fourで鳴らしておいでのHarbeth(UK)をお借りして鳴らしてみると、先ほどまでの不具合が嘘のように朗々と鳴るではありませんか。結果的には何らかの事由でCremonaが左右とも故障(ユニットでなく内部ネットワークパーツの劣化?)ということが消去法的に推定される事態となりました。

海外オーディオ製品は代理店が切れると修理NGという事例が結構あるのですが、Sonusは幸いに輸入が継続しているので早々に東京へ移送してフルオーバーホールの手配を取ることにしました。そのタイミングでアンプも当社で預かって完全リフレッシュすれば、また今後20年安心して使って頂けそうです。

機器チェックをしながら色々とお話をしていて、そういえば去年のウィーンフィルの公演にいらっしゃってましたよね…などと雑談に華が咲き、そんな時間を共有できたことも嬉しかった今日のひと時でした。


by audiokaleidoscope | 2024-07-12 23:59 | オーディオ

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