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Amplifier is "NOT" Straight Wire with Gain

今日、スピーカー持ち込みの試聴対応させていただいた時のこと。開梱すらされていないダンボールから出てきたスピーカーは自分にとって忘れられないモデルでした。
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あれは何時のことだったか…改めて調べてみたら7年半ほど前のことでした。某オーディオ評論家さんから連絡があって”頼みたいことがある、どこかで会えないか”と連絡があって、MUSIC BIRD収録のタイミングに合わせて都内で待ち合わせました。

依頼の内容は、関西の或るスピーカーメーカーの開発者を対象とした真空管アンプのセミナーをやってもらえないだろうか、というものでした。

当時のことは正確に思い出せないのですが、確かスピーカーづくりをしている者にとってアンプというのは駆動源、つまり電源のようなものとして捉えられていて、アンプ自体の個性や音質差というものを前提としていない…だからアンプの開発者という立場で複数の真空管アンプを鳴らしながら、その豊かな”鳴りの差”みたいなものをスピーカー開発者に体感させてもらえないだろうか…というようなオファだったと記憶しています。

スピーカーエンジニアがアンプを静的な存在として見がちというのは大変よく分かります。アンプは”Straight Wire with Gain"つまり「利得をもつケーブル(のような無色透明な存在)」という暗黙の前提があるのです。

スピーカーはあらゆるオーディオ機器のなかで最もノンリニアな存在で、周波数特性もインピーダンス特性も位相特性も平坦どころか非常にダイナミックに変動しています。したがってスピーカーを設計する際は周辺機器を仮想的に完全フラット(無個性)であるという前提に立たないと何をやっているか分からなくなってしまう。

例えば物理学で或る定理の前提として”空気抵抗は0とする”、”反発係数は1とする”といった実際にはあり得ない条件設定をせざるを得ないのと同じように、接続される機器によって自らが設計したスピーカーの音が変化するという前提になかなか立てないのです。

だからこそ、その評論家さんは敢えて真空管アンプと接続することで、無色透明と思っていたものにも必ず個性というものが存在するということをスピーカーエンジニアの皆さんに知っていただこうと思ったのかもしれません。少なくとも自分はそう理解してお受けすることにしました。

その際の資料は今でも残っていて、目次的には

テーマ「なぜ、いま真空管なのか?」
・真空管アンプのイメージ
・ハイエンドメーカーの動向
・現代真空管アンプのメインストリーム
・補足 ~真空管の動作原理~
・真空管アンプの音の魅力に迫るための重要なキーワード

というパワーポイントを作成し、市場は無色透明なものでなく、オーディオに豊かな個性と接続される機器やケーブルによって敏感に反応(あえていえば変化)するものを求める傾向にある、ということを結論として伝えられるようなストーリーづくりをしました。

そして何台か自社アンプを持込み、そのブランドのスピーカーを鳴らした訳ですが、そのスピーカーが今日久しぶりに対面した卵型のフルレンジだったのです。反射や回折を嫌った流線形の樹脂製エンクロージャー。私たち真空管アンプ党員のスピーカーイメージの対極にあるこのスピーカーを鳴らしながら、2時間のセミナ―の予定が倍以上の喧々諤々の質問攻めと大討論会になったこと忘れません。”きっとこのブランドは成功する”…そう確信したことを覚えています。

それから時間が経過し、このブランドは当社も属する自動車グループの一員に加わることとなったのは大変奇遇なことでした。ひょっとしたら私がセミナーを頼まれたのは丁度なにかが大きく動こうとしていた時期だったかもしれません。

…そして今日、7年半ぶりに聴いたこのスピーカーの音はセミナーの時に聴いたイメージとは大きく違うものでした。

2017年当時と今日のモデルが同ロットなのか後継品番なのかは私には分かりません。しかしアンプを接続しパッとヴォリュームを上げた時の反応の速さ、音色の中庸さ、温度感の高さ、いずれをとっても非常に鳴らし易く変化していると感じました。或いは気づかないうちに私どものアンプも何かが変わっていたのかもしれません。何を替えても音が変わるのがオーディオですから。
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そんな中でこのスピーカーを最も俊敏に且つ豊かに鳴らしたのはSV-P1616D / KT88仕様でした。あれから7年半、今日また再会できたことを非常に嬉しく感じたひと時でした。

きっとスピーカーもAmplifier is "NOT" Straight Wire with Gain(アンプは単なる利得をもつケーブルの如き存在ではない)と改めて気づいてくれたことでしょう。


by audiokaleidoscope | 2024-07-10 23:59 | オーディオ

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