今日はなかなか気づきにくい300Bのトラブル事例について共有したいと思います。
これはSV-38T / PSVANE WE845仕様のオーバーホール上がり品です。すごい存在感ですね。

この個体は前期ロットで恐らく2000年代の後半の品物ですから、出荷から20年弱が経過したことになります。お客さんからのお申し出は通電時に出るプツプツノイズと聴感上の歪み感でした。
シャーシ内部を確認したところ電解コンデンサーの半数以上に液漏れと膨満が見られた典型的な経年劣化の状況でした。特に高電圧でシャーシ内部の温度が高くなる送信管アンプで起こりがちな事象です。20年選手では音に異常なくとも全ての電解コンデンサーをリフレッシュしても良い時期に来ているでしょう。
今回の事例のように通電時のプツプツあるいはブツブツ音はコンデンサーの劣化兆候の典型的事例の一つですし、ハム増加は特に電源部あるいはフィラメント平滑部の容量抜けが原因であることが多いので、連鎖故障が起きる前に早めのお手当が望ましいといえます。
今回の事例では本体改修でも問題解決に至りませんでした。信号は出力されるのですが片chのレベルが低く波形も悪いというものです。電話などでお問い合わせが最も多い私たちに最も身近なトラブルといえます。
こういう場合は初段→出力段の順番で真空管を左右入れ替えていきます。SV-38Tの場合は増幅段が311B-300B-845で構成されていて整流管は5U4系あるいは274Bが使えますので、まず311Bを左右入れ替え、次に300B、そして845の順に、それぞれ左右入れ替えを行って聴感上の変化を確認すれば、とりあえず測定器のない環境でも真空管の異常を検知できます。
今回の事例では初段Western Electric 311Bで一本, ドライブ段KR300B Baloonに一本の問題が検出されました。311Bは耳で聴いて明示的に異常が分かるレベルではありませんでしたが、300Bは明らかに片側の利得が低く誰が聴いても分かるレベルでしたので300B単体で確認を行います。

KS-15750-L1でGmを測定してみると一本が棄却値の50%以下の値しか出ません。これでは期待された増幅動作は除むべくもありません。
真空管の劣化は長期間の使用によるエミ減(熱電子放出特性の劣化)かヒーター / フィラメント周りのトラブル、その他稀に管内真空度そのものの低下が多い訳ですが、今回のKR300Bは見たところ新しそうでゲッターも90%程度は残存しているので真空度に問題はなさそうです。
環境を替えて確認してみます。別のアンプ(SV-501SE)にKR300Bを挿して通電したところ、やはり規定Ipの1/2程度しか電流が流れません。Ip=0の場合はフィラメント切れ、暴走(Ip振り切れ)の場合は発振あるいはグリッドとフィラメントの管内短絡などが疑われる訳ですが、今回は暴走でもなければゼロでもないので、増幅の基礎となるフィラメント周りに何らかの問題が潜在していると想像できます。
少し暗い場所で通電し上からフィラメントの状況を目視で確認したところ…ああ、やはり、フィラメントの片切れです。

上の写真が片切れの個体。300B内部は2組のフィラメントが並列的に装備されています。Western Electric 300Bでは正常な場合4本の輝線が見られるのが正常、KR300Bでは8本の輝線が目視で確認できるのが正常ですが、上の写真で中央の4本(一組)しか通電していないことが分かります。これが片切れです。必要なエネルギーの半分しか供給されない訳ですから仕事量が半分になるのは当然ですね。

これが正規の状態。8本(二組)とも通電していることが分かります。残念ながらフィラメントにダメージが発生した真空管は修復できませんので、特性の近似した別個体でペアを取り直すか二本とも更新するしか方法がありません。
今回お預かりしたSV-38Tは300Bフィラメントの平滑回路がかなり劣化していましたので、もう少し早めに手当てしていれば片切れを回避できた可能性もあります。
300Bフィラメントは製造上, 構造上の事由で発生度合いが変化する場合もあります。最初期の曙光300BS-B(ナス管)ではフィラメントの屈曲部で断線することが多かったですし、Svetlana 300Bでは特にDC点火アンプでフィラメント自体の痩せから断線に至るケースが多かったと記憶しています。
音はちゃんと出るのに左右音量が明らかに違う。300Bを左右入れ替えると状況も連れ回る…という場合は部屋の電気を消して300Bを上から覗いてみて下さい。案外気づきにくいフィラメントの片切れが起こっているかもしれません。