空冷ポルシェと整流管アンプ
2024年 07月 02日
空冷エンジンが水冷に取って変わったように整流素子が整流管からダイオードに替わったのには様々な理由があります。その最大の理由は寿命ということになるでしょう。先日のエントリーで書いたように、整流管は一本ですべての増幅管のB電流を賄う縁の下の力持ちで、負荷的にも寿命的にも一番厳しい条件で動作しています。非常にざっくりと3000時間とか5000時間とかいう目安を掲げる人もいますが、絶対時間は別として相対的に他の真空管と比べて短命の傾向であるのは間違いないでしょう。
今日ご相談があったのは20年以上使ってきたSV-91Bの整流管がWestern Electric JAN CW-274Bで、幸い今まで一度も替えたことはないが、今後のことを考えるとちょっと心配で…2007年頃にいちどSBD(ショットキーバリアダイオード)の274B互換品というのを買ったことがあるが実際どうなんだろう…という内容でした。


対策としては、例えば見かけ上274Bと同じ管内ドロップを生じさせるためにダイオードモジュールの内部抵抗をあげる必要があります。上図でいえば2本のAnodeの接合点と8番ピンの間に200~400Ω程度の抵抗を挿入する必要があるでしょう(正確には実測しながら検証が必要)。
電気的にはこれで半永久的な寿命が担保される訳ですが、もう一つ、肝心な音についてはどうでしょう。これは冒頭の空冷と水冷の比較に似て、”効率(特性)よりも味わい”ということになると、やはり整流管の方が好き…という方が結構いらっしゃるのが趣味の世界の奥深いところです。
例えば現在多用されるショットキーダイオードは、順方向電圧が低く、スイッチング特性が非常に高速という特長があり、物性としては明らかに整流管を凌駕しています。毎日10時間、お店で使っているような場合は整流管を適切なダイオードモジュールに替えた方が安心ですが、ここ一番、真空管らしい滋味あふれるオーガニックな音を楽しみたいという場合は、やはり整流管の方がしっくり来るという方も多いことでしょう。
安定性を取るか味わいを優先するか…このテーマは空冷911乗りの先輩に加わって頂いて大いに議論する必要があるかもしれません。”趣味とは実用を超えた拘りである”は車でもオーディオでも同じですね。我々も更に研究が必要です。