人気ブログランキング | 話題のタグを見る

なぜキットを?

そのご連絡は先日の松任谷さんのレコ発youtube配信のエントリーをご覧になった方から入りました。

要約すると”配信音声はSV-91Bの出力をミキサーに返しているというのは間違いないですか?”というもの。結論的にはその通りで、MUSIC BIRD番組収録時と同じ方法、つまりSV-91Bの出力を8Ωのダミーロードを介してラインレベル信号に変換してミキサーに送り、当日の会場とyoutube配信いずれもSV-310EQ + SV-310 + SV-91Bのリアル真空管サウンドでお楽しみ頂いたことを説明しました。

するとその方は”自分もプロ組立品のSV-91Bを使っているが、常時ジーという感じのノイズが出ていて音楽が鳴っている時は気にならないが、無音時は耳障りで対策が必要。また時々バチっと大きなノイズが出る”とのこと。

カルテではその方の履歴にヒットしないので確認すると、某大手中古ショップで”プロ組立品”として販売されていたものを購入されたとのことでした。

念のため真空管を左右入れ替えていただいたり、入力にショートピンを挿して通電頂いたりして状況を確認いただいたのですが、どうやら原因はアンプ本体と思われたので、当社でお預かりたのが下のアンプです。
なぜキットを?_b0350085_06002679.jpg
現行仕様と同一ですがカップリングがJENSEN錫箔ですので、恐らく2010年代中盤の製品と思われます。パッと見かなりきれいに組んで頂けていますが、当社組立品ではありません。

プロの方が組まれたということから組立後の性能確認も行って頂いていると思われましたが、追認すると各真空管へのヒーター, プレート, カソードへの供給電圧こそ正常ですが、仕上がりのゲイン, 周波数特性, 出力, 残留ノイズ等すべて規格外です。お客さんが仰るように誘導ノイズが特にひどく10mV前後のジー音が常時聴こえるような状態で、これではとても正常とはいえません。組立マニュアルには基準特性が書かれていますが、恐らく組んだ方はPGKの電圧だけ当たって完了とされたのではないかと推測します。

竹ピンセットチェックを開始した直後、すぐに気づいたのは端子台周辺の配線が左右chともされていない(配線忘れ)が六ケ所, 未ハンダならびにイモハンダが数か所検出されました。よくこれで音が出ていたものだと思われる状態です。
なぜキットを?_b0350085_06002632.jpg
Lch初段周りのジャンパー忘れ(赤破線部)。お客さんが仰るジーノイズは310Aのグリッド配線の網線側(GND側)がシャーシアースに落ちていないことが直接的な原因でした。
なぜキットを?_b0350085_06002716.jpg
これが組立マニュアルの当該部抜粋です。回路図が読めなくてもしっかりマニュアルを読んでいただければ回避できた筈のミスです。
なぜキットを?_b0350085_06002637.jpg
これは別の場所のジャンパー忘れと未ハンダ部。抵抗がからげられていたので辛うじて接触しているような状態でした。”時々バチっという音が出る”のはこの部分が原因だった可能性があります。その他、複数箇所でハンダの加熱不足が検出されました。

不具合箇所を含めた全体点検の結果、すべてのパラメータで正常値となり残留ノイズもノイズシールド加時で0.2~0.3mV(入荷時の約1/30程度)まで下がりました。その他カソードバイパスコンデンサーの取付位置間違いによって電流帰還がかかっていたことによるゲイン異常も修正され出力10.5W, ゲイン28.5dBを回復しました。きっとお客さんは”これが同じアンプか!?”と思われることでしょう。

こう書くと”ではなぜキットを売るんだ?ぜんぶ完成品にすればいいじゃないか?”と反駁される方もいらっしゃるかもしれません。そもそもアンプの組立キットはアマチュアの方を対象として企画, 製造, 販売されているものですから、専門的な測定器などなくてもちゃんと組み上がることを想定しています。

ほとんどのお客さんが、散々苦労され、何度も何度も組立マニュアルを見直しながら自分のミスを発見し、克服した結果世界に一台の愛機を完成され、自分の作ったアンプで音楽を聴く感動に浴していらっしゃる訳です。私どもが最重視しているのはそのプロセス(モノづくり)の醍醐味そのものです。

そこに組立上の勘違いやミスというリスクがあることを否定するものではありません。ではなぜ創業後25年以上もキット販売をやめないかといえば、同好の趣味の仲間の熱意と努力を信頼しているから。そして本当に困った時は誰が組んだものでも私たちがサポートできるから…という想いがあるからです。

最初から100点満点とれる筈がありません。先日のbefore / after事例もそうですが、皆さん苦労しながら腕と感性を磨いて少しづつステップアップされます。今日も多くの方がキットと格闘されていると思いますが、人間は間違うものだという前提でもう一度見直していただければと思います。それが期限も査定もない趣味の世界の最大の楽しさの一つです。



by audiokaleidoscope | 2024-06-22 23:59 | オーディオ

SUNVALLEY audio公式ブログです。新製品情報,イベント情報などの新着情報のほか、真空管オーディオ愛好家の皆様に向けた耳寄り情報を発信して参ります。


by SUNVALLEY audio
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31