今日は朝イチで今月の認定品最後の一台SV-EQ1616D / 松(NS)の仕上げ。


NS品の場合の確認作業は組立代行新品とまったく同じ。真空管もすべて新品なのでエージングにはかなり時間をかけて仕上げていきます。
その後ショールームへ移動して溜まっていた書類整理などを行ったのですが、今日は夕方試聴室に来られた奈良のNさんのことを書いておこうと思います。
Nさんのご来社は今日が初とのことでしたが、2018年の大阪試聴会へ来られた時の音が忘れられず、「ずっと耳のなかに音が残っている」感じで、もう一度こんどは自分のCDで聴いてみたくなったということでした。
他人の顔がみな違うように”良い音”の定義は100人いれば100通り。他人の耳を借りることは出来ないので、結局オーディオにおける”良い音”は自分の中で完結した世界の中にしか存在しない訳ですが、恐らく共通するのは”いつか聴いたあの音”...お友達のオーディオだったり、ショップの試聴セットだったり、オーディオイベントのデモだったり…”わあ、なんて良い音なんだろう”…と思った感動が心のなかにずっと残って、いつしかそれが美化, 定着してイメージ化する、こんな経験は誰にでもある筈です。
2018年の大阪試聴会でどのアンプを使い、どのスピーカーが鳴っていたのかも分からない、と仰るNさん。”ただね、デモ中にパッとサンバレーさんの部屋に入った訳ですよ。そうしたら何十人も入る部屋に音が満ち満ちていたんです。スピーカーが鳴っているという感じでなくて、部屋全体が鳴っているみたいな感じで、それが忘れられなくて…”と仰って下さいました。
わたしも永いこと、この仕事をさせていただいていて、理屈でなく只々陶然と、金縛りにあったように音の前に立ち尽くした経験は何度もあります。アンプやスピーカーの自作を始めて相当年月が経ってからのことですが、名古屋へパーツを買いに行ったときにふと聞いた
Pioneer / Exclusive S5の音を聴いた時のことはいまでも忘れません。アンプは朧げながらSUNSUIの907辺りだったような記憶があります。たぶん1993~4年頃の事です。
恐らくその時はじめて”三次元的音場”というのをちゃんとした環境で聴いたような気がします。二つのスピーカーが鳴っているだけなのに二つのS5の後方に音が浮かんでいる衝撃は完全に心に焼き付いて今でも離れません。
別の体験では、これも恐らく90年代初めだと思いますが、或るショップで聴いた今は亡き
RoydのSINTRA IIの音。この時のアンプは
Musical FidelityのA1でした。この時もExclusive S5の時と同じ空間表現の豊かさに度肝を抜かれた記憶があります。
それまでは帯域バランスこそがオーディオの肝で、位相特性(空間表現)にまで知見が及んでいなかったのだと思います。あれから30年以上経過し、仮に今同じ音を聴けたと仮定して、果たして当時の感動が甦るかどうかは分かりません。人間が成長していくように感性も熟成されていく訳ですが、”あの時聴いた忘れじの音の記憶”は永遠に自分の心のなかに焼き付いて離れないのだと思います。
スピーカーは大阪試聴会の写真を見直してLM69をセットして約1時間半。”あれから6年経ってどうですか…初めて聴く試聴室の音は如何ですか”とNさんにお尋ねしてみました。ちょっと勇気のある質問でした。
”サンバレーさんの音はどこで聴いてもサンバレーさんですね、真空管の響きは本当に素敵です”と満足されたご様子でホッとしました。自分の経験を振り返っても、偶然予期せぬ場所で驚くような音を聴いた経験というのは実はとても重要だったんだなと感じます。あの時の音を聴かせて下さった店員さんには改めてお礼を申し上げたい…そんな気持ちになった今日でした。