今日は最近の試聴の際のエピソードです。
予約の際に必ずお伺いするのは機種の指定の有無とソースの種類。たとえば”初心者なので全般的に”という方には四類型(三極管, 多極管, シングル, プッシュプル)を用意して全般的な音の景色を感じて頂くとか、もう少し具体的に”KT170を幾つかのアンプで比較試聴したときに違いがどのくらい出るのか?”という方にはシングルアンプの場合はSV-S1616D / 多極管仕様と
TU-8850を聴いて頂き、プッシュプルご希望の場合はSV-P1616D / 多極管仕様とSV-8800SEを聴いていただいたり…実に多種多様なテーマが生まれてくる訳です。
私どもの試聴室はモノを売るための場所でなく、広く真空管アンプを体感する場所と定義して2003年から運営してきておりますので、他社製品の持込OK, 自作機器の持込OK...と基本出来ることは何でもやってみようという実験と学びの場所として活用いただける方に開放しています。
今回のリクエストが面白いなと思ったのはは”いちばん安いフォノイコライザーといちばん高いフォノイコライザーを比較させて欲しい”という内容だったから。つまりSV-EQ1616DとSV-310EQを比較するということですね。価格差約3倍、なかなか興味深いテーマです。
今回お客さんが来社されてまず見ていただいたのは電気的性能の比較です。2台を同じ条件で動作させたときの基本性能に差異はないということが大前提であることを理解いただきました。

100万円の軽自動車と1000万円のスポーツカーでは性能自体が別次元なので比較する意味がありませんが、オーディオが面白いのは同じカテゴリーの製品であれば10万円と100万円の製品の基本スペックに大きな差異がないことです。じゃあ何が違うかといえば”音質”ということになる訳ですが、”じゃあ、それが自分にも違いが分かるのか?”という疑問につながる訳です。今回で言えば投資額の差は大きなものですの当然の疑問です。
機台を試聴室に移動して比較を開始します。バタバタしていて写真を撮るのを忘れてしまいましたが、カートリッジはお客さん持込のDL-103Rと当社のMMとMCを幾つか。ソースはすべてお客さん持込で比較を開始します。フォノEQは機種でゲインに若干の差がありますので公平を期すためパワーアンプ(今回はSV-8800SE / KT170仕様)の出力電圧をモニター(2W / 4V@8Ω)して聴取音量を全く同じ条件にして聴いて頂くこととします。こういう電気的環境設定の見える化は一般のオーディオ店さんでは難しいのかもしれませんが、とても大切なことです。
作り手の立場としてはSV-EQ1616Dはマルチイコライゼーション(各種EQカーブ)対応のコンパクトなCR型フォノEQであるのに対し、SV-310EQはRIAA専用ですし、MC対応に関してもSV-EQ1616Dはヘッドアンプ内蔵であるのに対しSV-310EQは橋本特注のMCトランス…という違いはありますが、さまざまなLPで試聴され、当社のデモカートリッジ(MM / MC)も動員して長時間比較試聴された結果、
①MMで1~2万の廉価帯のものではEQ-1616DのMM(High)ポジションのパンチが心地よくこれで十分。
②ただしDL-103RなどMC中心の場合はEQ-1616Dの内蔵ヘッドアンプでなく昇圧トランスを使った方が良い。
③その点SV-310EQの音の濃さや低域の充実感は聴いて初めて分かった。使っている人の高評価にも納得。
④試聴室の「青龍」の音は今までリファレンスにしてきたDL-103Rの音が曇って聴こえるほど鮮烈だった。
という感想メールを送って下さいました。オーディオは実用を超えたところの拘りですので、上を見ても下を見てもキリがない世界ではありますが、いちど高い所から眺めておくと、今まで同じと感じたものの違いが非常にはっきりと認知されるようになるものです。
”耳の感受性”なんて言い方をする方もいらっしゃいますが、買う買わないは別として所謂リファレンスクラスの音をちゃんとした環境でしっかり体感しておくことは後々大きな自分の肥やしになると思います。「PSVANE 300BとWestern Electric 300Bは10倍の価格差に相応しい音の差があるのか?」なんてテーマの試聴も皆さん興味がおありでしょうね。ぜひご自身の耳で判断してみて下さい。