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入院前のセルフチェックのすすめ

今日は修理を何件か。偶然ですが最近類似事例が重なったので、「よくある修理」の一つとして案件レヴューをしたいと思います。

これはSV-91B III / PSVANE WE300B, JENSEN錫箔バージョンのキット組立品。2014年出荷のカルテが残っています。写真の通り美しく制作された個体です。

元々のオーナーの弟さんが現在お使いで、伺えば形見分けとか。”兄貴の影響で私も子供の頃からオーディオが好きで…」というのは我々世代共通のストーリーです。心してしっかりメインテナンスしていきます。
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今回ドックインしたのは、”音は普通に出ていて音質も問題ないのですが、アンプの電源を切る時にバチンと大きなノイズが両方のスピーカーから同時に出ることがある。プリを外しても状況は同じなので原因は91Bと思われるが、見た感じ異常はないようで原因が分からない”というお申し出によるもの。

ここで大事なのは「ノイズが両方のスピーカーから同時に出る」という部分。仮にノイズがRchからしか出ないのであれば問題がRch増幅部に潜伏していると推測されるように、今回は両chから同時…つまり電源部かアース部に何か問題が起こっていると強く推定されます。

あと参考にすべきは「電源を切る時」という部分。電源ON時には出ず電源OFF時に不具合が発生するということは何が一番可能性があるかといえば熱的条件の変化が遠因であるという推定です。…となれば最も疑わしいのはハンダクラック、つまりアンプ内部のハンダ部は電源ON / OFFの繰り返しによって熱膨張と冷間収縮を繰り返され、制作時に生じた僅かなハンダの浸潤が不十分な箇所にクラック(亀裂)が生じ、それが原因で接触抵抗あるいは接触不良が生じたと考えるのが妥当でしょう。
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ターゲットが電源部の高発熱部に絞られましたので、疑わしい箇所を順番に診ていきます。この際、目視に頼ってはいけません。恐らく見て分かるような不具合ではありませんので。ここで非常に有効なのは「竹ピンセットチェック」そして「割り箸チェック」です。

竹ピンセットも割り箸もハンダ部に強制的にストレスを与えることで劣化部分を特定するだけでなく、今後起こり得る問題箇所を抽出できる場合も多々あります。この方法をお知らせして今までどれだけの方が当社での修理を回避できたか数えきれないほど有効な手段です。
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今回通電後一時間後の熱膨張が十分起こった状態での竹ピンセット, 割り箸ダブルチェックで二箇所の問題が検出されました。一つは直接の原因であった顕在箇所、もう一つは今後起こる可能性が高い潜在箇所です。写真で見ても分かるようの目視上は全く問題ありません。複数のパーツやリードが同一ラグに入っていて複数回ハンダした箇所で、見たところ繋がっているようで電気的には導通が完全ではなかった部分を見つけるには、それなりの仕掛けが必要という訳ですね。

私どもには日々さまざまな相談が来ます。一旦は(或いはしばらくは)音が正常に出ていたが、ある時から問題が生じるようになったというのは非常に高い確率で単なるハンダ不良が原因ですから、修理に出さずとも復旧できる可能性が高いのです。

もちろん10年経ったから全体点検を含めてオーバーホールを…というようなケースもあるとは思いますが、まず入院前のセルフチェックしてみることで案外「な~んだ」ということもあり得ますよ、という今日のレポートでした。

お兄さんの分まで永くご愛用いただければ幸いです。


by audiokaleidoscope | 2024-05-19 23:59 | オーディオ

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