今日から受注と物流が再稼働を始めて、個人的に本来業務に戻って少々ホッとしていますが、目の前には今月の特選改め認定中古の整備と検査, メインテナンス案件の対処, 査定依頼品の検査案件が相当量あって、しばらくは全集中の日々が続きそうです。
そんな中、最近ちょっと気になっているのがC to C市場における真空管流通です。
改めて言いますとC to C = Consumer to Consumerつまりインターネット上などで行われている個人間取引のことで、リセールの良いオーディオ製品ではリアル店舗における新品, 中古販売に続く第三極といっても過言ではない状況だと思いますが、内容的に玉石混交であるのはご想像の通りです。
その前提を踏まえ、下の写真をご覧ください。
パッと見、Western Electric 310Aスモールパンチ。しかしこれはいわゆる”転がし”(re-print)と言われる種類の真空管です。なぜ転がし球と呼ぶかいうと元のブランドを消去したベースに別のブランド(例えばWestern Electric)の版下をクルっと転がして再印刷して転売するからと言われています。
この310Aはペア約5万円で購入されたということですが、転がし判定した根拠は四つです。
①Date Codeが1973年第二四半期になっているが、この時期にWestern310Aスモールパンチは存在しない
②”310A”のフォントが純正品と異なる
③ピンのメッキ状況またピンのエンド加工形状が純正品と異なる
④ロゴ印刷の方向性が不統一(Westernはヒーターピン側にロゴが来るのが通常)
がその根拠です。
おそらくこれはNatinal Electronics (リチャードソン・エレクトロニクス社)製だと思います。もちろんNatinal Electronics自体は歴史あるきちんとしたブランドで、トリビア的にいうと松下電器さんがアメリカでナショナルブランドが使えなかったのはリチャードソン社がNationalブランドをすでに商標登録していたから伺ったことがあります。
今回の310Aは端的にいえば偽物ですが、電気的には正常というところが話を複雑にしています。
SV-2300LM / 初段310A仕様に挿して通電したところ、左右ゲインもバッチリで所定ゲインも取れています。出力的にも22W以上取れて周波数特性も70kHzあたりまで伸びていて問題ありません。結局C to Cは売る側にも買う側にも知識と経験が必要で、今回の件は売った方が真贋について疑いを持っていなかった可能性も十分ありますし、ここがC to Cの難しいところです。
せっかくの機会ですので、もう一例の転がし球の例をご紹介します。この310Aは二次取得品のSV-91Bに実際使われていたものです。
右側がいわゆるRussia 310Aつまり10Ж12C / 10J12Sのリプリント品(左は通常品のRussia 310A)です。ウエストの絞り加減がWestern Electric 310Aと明らかに違うのとWestern Electricのロゴも少し変で、見る人が見れば直ぐに分かる稚拙なFake品です。
ちなみに下が真正品。
全体のシルエット, Date Codeと内部電極形状の時代的一致、そしてピンの酸化被膜状況も判定材料となります。改めて上の写真と見比べていただくと差異がお分かりになる筈です。
その他、最近の事例ではTelefunken EL34のリプリント品(もとはSOVTEK)やRCA 2A3のリプリント品(もとは桂光)を見ました。今後も注意が必要だと思います。やはり信頼出来る相手から手に入れること、これが一番大切ですね。