先日のMarantz 7につづく”あるあるシリーズ”第二弾です。
20数年間にわたり真空管アンプを生業(なりわい)としてきて、過去一番多く伺ったトラブルは何でしょうか。今日たまたまその事例がありましたのでご紹介します。
今回の第一報は「音楽を聴いていて、突然バリバリとノイズが出てアンプから煙が出た」というものでした。実際は煙ではなく水蒸気で異臭が伴うので煙と認識される方が多いのですが、アンプの裏蓋を開けてみると…
アンプはSV-S1616D / PSVANEKT88-C仕様。パッと見、パーツが過熱して変色していたり、配線材が炭化したりといった著しい問題はありません。
今回「突然バリバリとノイズが出て」と伺っていた時点で、ほぼ傾向と対策のメドが立っていたので、最も疑わしいと思われる部分を詳細に確認してみます。
最初の写真の中央下部。これは出力管(KT88)のカソード(8番ピン)に繋がっているカソード抵抗(5W680Ωセメント)とカソードバイパスコンデンサー(100uF100V電解)です。よーく見ると電解コンデンサーの頭が膨れてスリット(防爆弁)が開いているのが分かりますでしょうか。現象的には電解コンデンサーの耐圧を超える電圧が一定時間以上発生した証憑ですが、設計的にここは40V前後が標準ですので、設計値の3倍程度(以上)の電圧が発生したということになります。
この現象を通称「G-K」と呼びます。KT88やEL34等、ビーム管や五極管で通電中の熱膨張あるいは偶発的な振動等によって管内のG(グリッド)とK(カソード)が接触あるいは短絡状態となり、カソードに大電流が流れてカソードバイパスコンデンサーが破裂(ドライアップ)するという故障サイクルです。
このG-Kが厄介なのは一旦電源を落とすと冷間収縮によってG-K短絡状態が一旦消失(収束)しテスター等で捕捉が困難なこと。しかしながら一旦G-Kを起こした真空管は高い確率で問題が再発しますので、基本的にいちどG-Kが起こったら当該出力管は交換対象とすべきです。
なおG-Kが発生したことが明らかな場合、注目すべきは①カソード抵抗の状態と②スクリーングリッド抵抗(5番ピンに接続)の状態です。上の写真ではカソード抵抗(白いセメント抵抗)の印字がしっかり残っています。これはセメント抵抗が長時間高温に晒されておらず、短時間にカソードバイパスコンデンサーがドライアップしたことを示すもので、恐らくG-K以外の問題はないと想像する一つの根拠となります。仮にセメント抵抗の印字が消えていたり、抵抗の中央部が変色, 炭化している場合は抵抗も交換対象となります。
次に②についてはG-Kに至った原因が出力管の熱膨張あるいは振動以外の可能性を示唆しています。仮にスクリーングリッド抵抗がまっ黒になっているような場合は、出力管の発振, 暴走等が発生した可能性があります。この場合は出力管の動作が不安定であるか設計上の要因が潜在している可能性がありますので注意が必要です。またこの場合は出力管自体が異常発熱して憤死する場合も多く、管内に空気が入ってゲッターが白化するような副次的証憑が確認できる場合もあります。
今回は納品して数か月の個体で外観, 内部ともに新品同様の組立代行品。診た感じG-K以外の問題は何も検出されていませんので、単純にKT88の個体的要因だったと判定しました。Ip, Gmの近似した代替球を用意し、カソードバイパスコンデンサーを交換して完了(保証期間内無償)です。
現在約12時間エージングしたところですが極めて安定しています。G-Kは誰しもが最初はびっくりしますが、多くの場合それほど大事に至らず復旧可能なトラブルです。こういう事も知っているのと知らないのとでは大きな違いがありますから、事前知識として理解しておくと良いと思います。