今日のお題は
エレキット TU-8500(組立代行品)。
TU-8500に限らず、近年は「タマは○○に」, 「カップリングはArizonaで」的なカスタムオーダーがずいぶん増えてきました。これ自体は”せっかく買うなら良いモノを”という気持ちの発露ですので喜んで承る訳ですが、一方で真空管を替えると何がどう変わる…とかカップリングコンデンサーを替えると何に効く…つまりbeforeを知らずにafterのみを体験している方が増えているのも事実です。
そこで今回同じ機台を使ってデフォルト(メーカー標準)とアップグレード版(お客さん指定カスタマイズ)で測定上の違いが本当に出るかを実証実験してみることにしました。
まずこれがデフォルト版で測定した結果です。当然ですが何の問題もありません。全てのパラメータが正常でありLINE, フォノいずれの入力時に周波数特性に関してもハイ / ローともに自然に減衰しています。つまりデフォルトで不満が残ることは特性を見る限りないということをこのデータが証明しています。
では次の工程としてお客さん指定のカスタムバージョンにアップグレードしてみます。
真空管を
Gold Lion ECC82に, カップリングコンデンサーを
Del Ritmo 0.47uF(オイルコン)に変更したのが上の写真です。
Gold Lionの音質について初めて自分の中で強く意識されたのは確かMUSIC BIRD収録でSV-P1616D / 多極管仕様を題材にして電圧増幅管を替えて音はどう変わるか…的なテーマで収録した時の実体験がきっかけだったと記憶しています。その力強さ, エネルギー感が漲った感じは他の現行管から一頭地抜けていると感じました。
ではこの組合せで再測定してみましょう。果たして数値上で違いは出るでしょうか。
これがアップグレード版の実データです。真空管には個体差がありますから、あまりに微視的になる必要はありませんが、特に周波数特性に注目してください。同じECC82 / 12AU7でもブランドが変わるとLINE入力時の低域, フォノ入力時の高域に明らかな数値的差異が認められることにお気づき頂けるでしょう。
もちろんこの差異にはカップリング交換の影響も重畳していることは間違いありませんが、カップリングコンデンサーを替えることによる違いは「音質」というよりも「音色」に効くと理解した方が良いというのが個人的意見です。従って今回の事例ではGold Lionによりレンジが広がり, カップリングコンデンサーにより厚みを加えた変化、と理解いただくのが適当と考えられます。
同様に整流管を替えれば+B系電圧そのものが変化する訳ですし、出力管を替えればパワーアンプ全体の音色を大きく変える効果があります。そして各真空管の動作条件(電圧, 電流値)なども複合的に重なり合ってアンプそれぞれの音は出来ているということを端的に示す一つの事例としてご紹介しました。
勘違いしていただきたくないのは、必ずしも高い真空管=高音質ではないこと。重要なのはそれぞれのブランド, 管種の個性を知り、自分の装置, 自分の好みに合う真空管やパーツを選ぶことであることは言うまでもありません。