送信管三種の競演
2024年 04月 10日
真空管アンプにもトレンドというか流行りみたいなものがあります。不変なのは300Bシングルくらいで常に全体の4割程度を占める感じですが、その他は時期によって変動しており、非常にざっくりした言い方ですが2000年代前半から順に送信管シングル→三極管プッシュプル→2010年以降は多極管プッシュプル→プリアンプ→フォノEQが盛り上がり、現在は再び送信管アンプに皆さんの注目が集まっているように感じます。今年に入っていちばん多いのは845と211の比較試聴です。
そういえば今週末にシカゴでAXPONA(Audio Expo North America)が開催され、当社製品も出品されますが、同イベントに出店する同業者さんの情報では真空管関連の出展は恐らく過去最高規模ということですので、新たなトレンドが生まれてくるのではないかと期待しているところです。個人的印象としてはふたたび多極管プッシュプルが復活してくるような予感もあるのですが…。
そんななか今日の試聴対応で印象に残ったのがSV-S1628Dで各種845 / 211を聴いてみようというもの。90年代中盤から中国製845が大量生産されるようになり、今でも総需要の80%以上がMade in Chinaという状況は変わっておりませんが、その中国製でも高級ゾーンで良いもの(例 PSVANE WE845 / WE211)が出てきたり、ドイツからELROGが入ってきたりして、よりハイクラスな送信管アンプの音が聴ける環境が整ってきたということもあるのでしょう...1000V / 100mAの音はどんなかいちど聴いてみたいという方が俄然増えてきているようです。
今日の最初は廉価帯の中国球から。これは曙光電子(Golden Dragon製造元)に別注していた頃のPrime 845ですが、現在はPSVANE 845 / 211が絶好調です。折からの世界的物価上昇によって次回入荷分からは大幅に価格が上がる見込みです。いまの在庫あるうちは当社では値上げは行いませんが、中国製を検討されていらっしゃる方はお早めがお奨めです。
たとえば皆さんよくご存じのエレック・クラプトン「アンプラグド」。
試聴時の持込音源で間違いなくトップ10に入るほどのメジャータイトルですが、4曲目「Tears in Heaven」のイントロ部分でクラプトンが床を足でタップするその重低音の量感でオーディオ機器の低域再生能力を推し量るスタンダードの一つになっています。
845ではライブ会場の空気感に耳奪われる感じですが、PSVANE WE211ではグッと重心が下がりクラプトンのタップ音がずいぶん大きく聴こえる印象です。今日は試聴室の4344で聴いて頂きましたが、他の38㎝ウーハーでも同じような結果が出るでしょう。自己バイアスのCR結合アンプでは211の出力は845の半分程度(SV-S1628Dでは8~9Wほど)ですが、そのハンデは全く感じません。
このPSVANE WE845 / 211は流通が安定せず、B to C市場で廉価で流通しているのは訳あり品(B品)が多く混入しており注意が必要です。いわゆる正規品ルートでは生産量の少なさから入荷磁器, 量ともにまちまちですが、私どもではなるべく常時在庫を持つようにしていますので、気になる方はお知らせ下さい。
ELROGの良さはギラつかない高域としっかりした体幹(音の骨格感)に加え硬さのないところ。同じ音量でも音の量感に違いがあり、いまや全く見ることのないCETRON 845/Hを彷彿させます。値段の高さには閉口しますが、比べて聴いてしまうとELROGに軍配が上がらざるを得ないという方が殆んどであるのも事実です。
送信管もそうですが300Bも現行中国球と本家Westernでは10倍以上の価格差があり、比較試聴したことのない方は「ほんとにそんなに違うのかな?」と思っておられる方も多いかと思います。そんな時は是非ご一報を…同種のタマを同じスピーカー, 同じ曲, 同じ音量で比較いただける場所はありそうで実はほとんどありません。ぜひその違いを体感して下さい。