オーディオとくにデジタル系のノイズ対策で困っておられる方は意外と多いようです。今日はスイッチング電源(ACアダプター等)を使っている機器で奏功した一つの事例を紹介します。
これは自宅の
ネットラジオ専用サブシステムのクロック供給部。右下がマスタークロック, その上の緑色が10MHzクロックです。簡単にいえばiPhoneで受信したTune InをBluetoothで飛ばして光ケーブルでDACへ接続する訳ですが、そのDACへ高精度ワードクロックを供給するのが上の10MHz+マスタークロックという訳です。
この10Mクロックは10年ちかく前に中国製を個人購入したもの。一般的な10Mクロックは内部で超高精度パルスを生成する必要があるため自ずと高価にならざるを得ませんが、これは通信衛星の高精度クロックを受信する形式。窓際にGPSアンテナを置く必要はありますが、極めて合理性の高い発想で価格も安かったと記憶しています。
ただこの10Mクロックには一つ問題がありました。元の価格から考えれば仕方のない事ではありますが、ACアダプターから流入していると思われるスイッチングノイズがクロックに流入し、かなり音質に影響を与えているのです。
試しにこの10Mクロックを
Ref10に替えると非常に滑らかな音になるので原因はこれに間違いありませんが、アダプターをいわゆる高級品に替えて幾分よくなるものの根本的な対策には至らず、マスタークロック単体よりマシなので甘受せざるを得ない…と半ば諦めて今日に至っておりました。
そんな状態が長く続いて放置状態となっていたところ…
この10Mクロックを当時紹介してくれたオーディオ仲間のYさん(
このエントリーの中盤に登場)が「良いモンありますよ」と貸してくれたのがこのフィルター。10Mクロックからマスタークロックへ接続するBNC間に挿入する形です。
基板を拡大してみました。BPF(バンドパスフィルター)と書かれているのがお気づき頂けると思います。基板上のLC定数が不明のため詳細は分かりませんが、簡単にいえばBNCで伝送されている10MHzに寄生している高周波ノイズをこのローパス(ハイカット)フィルターで取り除いてしまおうというものです。
このBPF有りと無しを比較するため、便宜的にこの10Mとマスタークロックを本線系(メインシステム)に移植して同じソースで比較してみると、安手のクラスDアンプにみられるようなチリチリした、言い換えれば粉っぽいような音の質感が大幅に緩和され音のキメが整う感覚であることが直ぐに分かりました。わずかに音量が下がって聴こえるのはローパスフィルターによって積分的に音のエネルギー量が減っていることと関係しているかもしれませんが、不自然に滲んだ音のエッジが取れてとても自然な印象で非常に好感が持てます。
これは凄いぞ!とばかり会社に走ってRef10 nanoで使ってみることにしました。以前
Ref10 nanoを紹介したエントリーでnanoはRef10のリニア電源をスイッチング電源に変更したことでコストダウンを図ったとお伝えしたことをご記憶に方もおられると思います。
結論から先に言うとnanoでは明示的変化はほとんど認められませんでした。今回このフィルターでスイッチングノイズが信号系に悪影響を与え得ることが理解できたので、nanoでも更に音質向上が図れる可能性に賭けてみたかったという訳ですが、つまり同じスイッチング電源でも高周波ノイズをまき散らすものとそうでないものがあることが、改めて明らかになったということでもあります。
家に一旦戻ってケーブルの引き回しを替えて電源供給ラインとクロック伝送ラインを出来るだけ話して再実験してみましたが、やはりこのサブシステムでの効果は明らかです。試しに常用のネットラジオ環境に戻してみてもbpsが128kが256kに上がったような、192kが320kに上がったような質感の向上を感じました。
こうして考えると可聴帯域を遥かに超える高周波ノイズがいかに私たちの聴感に影響を与えるかを再認識した気がします。聴こえるノイズは対策可能ですが、聴こえないノイズは元から断ち切っておく必要がありそうです。