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(再掲)KT150とKT170の互換性あるいは差異について

先日のブログでElekit TU-8340について触れた際に「セミオートマティックなバイアス調整によりEL34~KT170まで幅広く楽しめます」というコメントについて、数件同様の問合せ(確認)をいただきました。曰く「TU-8340でKT170は使えるのか?」という内容です。

これについて製品販売時期的背景とともにメーカーと当社の認識にも若干ずれがあったようですので、今後のためにもファクトを整理しておきたいと思います。
(再掲)KT150とKT170の互換性あるいは差異について_b0350085_23044757.jpg
この写真は2021年秋頃、KT170が初めて当社に入荷した際の実験記録画像の一枚と思われます。TU-8340の最大の技術的特徴である自動バイアス調整がKT170でも正しく機能し、測定結果も良好であったことを確認した時のが写真でしょう。※追記: KT170使用時は製品標準のボンネットは使えないようです。高橋さん情報有難うございました。

今回「TU-8340でKT170は使えるのか?」については、先ずTU-8340販売当時にはKT170がまだ存在していなかったことでメーカーリリースにはKT150までの動作例しか掲示されていないことが遠因になっている可能性があります。

またメーカーがKT170を推奨対象外としている可能性に関しては「Ipの偏差値がやや高めにある可能性もあるかも、と考え、そのように回答していました。実際にTU-8340でエラーが出ないことを確認できる環境であれば問題ないと考えます(メーカー回答原文ママ)」というやや曖昧な理解となっていたことが皆さんの疑問につながった可能性があると考えます。

まず再度明らかにしておきたいと思うのは「KT150とKT170は同一のヒーター定格, 電極構造を有し、異なるのは外形(ガラス形状)と管内放熱フィンの差異による空冷(クーリング特性)のみである」というファクトです。これは国内初導入時に世界総販売元であるNew Sensor社(NY)に直接照会し、且つ国内代理店にも確認したところ同一回答を得たことからも明白です。

言い換えればKT170は「KT150のクーリング特性を改善したことで熱的(電流的)な動作上限に余裕が生じた結果、より大きなプレート損失が得られた上位”互換”球である」ということになります。つまり「KT170はKT150と同じ動作条件はもちろんOKですが、タマ単独でいえば実際はもっと電流流して大丈夫ですよ」という解釈が正しいのです(ただしKT150前提で設計されたアンプでは電源トランス B電流の最大値の関係でバイアス調整値は同一が基本となります)。

その結果、2018年当時のブログで私が書いたのが「放熱で音が変わる」というポストでした。このなかで「KT170のスペックそしてアンプ実装時の特性比較から電極構造ならびに電気特性においてKT150とKT170は非常に近似しています。検証の結果、KT170は物理的形状(ガラスのサイズ)と放熱向上により更に高いプレート損失を獲得した出力管と言うべきものと判断」と述べたのは上記を踏まえたうえでのコメントであった訳です。

もう一点、メーカーコメントにあったKT170の「Ipの偏差値がやや高め」については、誤解の原因(かもしれない)データが見つかりました。メーカーが実際データをみたうえでの解釈なのか、単なる感覚的印象による判断なのかまでは確認しておりませんが、詳しく見ないと勘違いしかねない部分ですので具体的に説明します。

今日現在わたしどもが在庫しているKT150とKT170の当社調達先(輸入元)の選別値の散布状況です。

KT150 在庫14ペア

IP:38.7 Gm:6.9 / IP:38.7 Gm:7.1
IP:39.3 Gm:6.7 / IP:39.5 Gm:7.0
IP:44.0 Gm:7.6 / IP:44.3 Gm:7.5
IP:44.8 Gm:7.5 / IP:44.8 Gm:7.5
IP:46.1 Gm:7.8 / IP:46.5 Gm:7.9
IP:46.5 Gm:7.7 / IP:46.9 Gm:7.6
IP:47.6 Gm:7.7 / IP:47.9 Gm:7.7
IP:47.8 Gm:8.0 / IP:48.1 Gm:7.8
IP:49.5 Gm:7.9 / IP:49.5 Gm:7.6
IP:50.3 Gm:7.9 / IP:50.5 Gm:7.8
IP:50.8 Gm:7.8 / IP:50.9 Gm:8.2
IP:52.5 Gm:8.2 / IP:52.8 Gm:8.2
IP:53.0 Gm:8.1 / IP:53.5 Gm:8.1
IP:53.1 Gm:8.1 / IP:53.1 Gm:8.0

KT170 在庫6ペア

IP:54.1 Gm:9.7 / IP:54.2 Gm:9.6
IP:56.0 Gm:9.7 / IP:56.1 Gm:9.7
IP:56.0 Gm:9.6 / IP:56.9 Gm:9.6
IP:57.0 Gm:9.8 / IP:57.2 Gm:9.7
IP:57.6 Gm:9.8 / IP:58.2 Gm:9.9
IP:66.1 Gm:9.9 / IP:65.6 Gm:9.8

これだけ見るとKT150とKT170の選別値が明らかに違うように見え、Ip(プレート電流), Gm(相互コンダクタンス)ともKT150 < KT170という結果として認識されてしまうかもしれません。ここで一番重要なのは実は両者のデータの測定条件が異なるという事実です。

(KT150)
Ep=400V
Esg=225V
Eg=-24V

(KT170)
Ep=400V
Esg=225V
Eg=-22V

という条件設定がなされており、プレート電圧とスクリーングリッド電圧は同一であるものの、選別時のグリッドバイアスがKT170の方が約10%浅いことが分かります。

バイアスというのは例えて言えば”ブレーキの踏み圧”のようなもので、同じだけアクセルを空けていてもブレーキの踏み圧が違えば当然車のスピードは変わってくる訳ですから、上記の値を以てKT150よりもKT170のIpが大きいという結論があったとすればミスリードということになります。つまりKT170の方が物理的に大きいので実装可能という前提で「KT150での使用が認証されているアンプではKT170は使える」というのが結論です。

一点気をつけたいのは真空管には製造時のバラツキや使用後のドリフト(特性変化)による個体差がIpで150%以上(プレート電流の流れる個体と流れない個体の差が1.5倍以上)あるものが普通です。私どもでは、そういう極端な真空管(エッジサイド球)は最初から撥ねておりますが、市場には普通に出回っておりますので、TU-8340のように自動でバイアスを調整する回路の場合、想定範囲外のエッジサイド球では調整が機能せずエラーとなる可能性はゼロではありません。

一つの知恵としては固定バイアスアンプの場合、皆さんが出力管を注文する際に「Ipのあまり高くないペア(クワッド)をお願いします」と販売元にリクエストすること。親切なお店は手持ち在庫のなかから選んで出荷してくれると思います。

以上 なんだか重箱の隅を突いたような細かい話になってしまいましたが、皆さんが安心して真空管アンプを使うためにも知っておいて頂きたいと考えポストさせて頂いた次第です。


by audiokaleidoscope | 2024-03-20 23:59 | オーディオ

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