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慌てて修理に出す前に

今日の救急外来(再診)はSV-91B。
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この個体は2020年製でJENSEN仕様の組立代行品。少し前に「片chから音が出なくなった」という申し出でドックインしたばかり。一週間ほど前のブログで内部写真をお見せした個体ですが、当初真空管なしで送ってこられ、当社で確認したところ異常なしという所見でした。併せてお客さんのリクエストで4-8Ωを8-16Ω仕様に変更して作業完了。

せっかくお預かりしたので、全体点検を行い測定も行ってお返ししました。
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測定結果(クリックで拡大)

お客さんにはアンプ本体には問題ないので、お使いの真空管のどれかがおかしいと思いますからよくチェックして下さいね、と申し上げていたのですが、返送直後から「やっぱり出ない」,「詳しい人に測定してもらったら310Aの一本のプレート電圧が異常に高くてカソード電圧がほぼゼロ」等々何度も電話が入っているとスタッフから報告。

多少知識がある方であればプレートが高めに出てカソードがゼロということはプレート電流が流れていない、つまり真空管が動作していない、すなわちヒーター電圧が供給されていないか、真空管が死んでいるかのいずれかと推定されますので、スタッフには「ほぼタマ原因で間違いないので、初段, ドライブ段それぞれ左右入れ替えて現象が逆転する真空管を特定してください」とお伝えするように指示しました。

しかしながらその後も色々とやって頂いたものの要領を得ず、きっとお客さんも慌てて半ばパニック状態になって冷静なチェックが出来なくなっているかもしれないと思い、お使いの真空管も含めて送っていただいたのが冒頭の写真です。

オーディオというのは複数の機器がシリーズに繋がってはじめて音が出る訳ですから音が出ないという現象がどの機器によって発生しているかを先ず特定する必要があります。このお客さんの場合はSV-91Bをお預かりする前にSV-310(プリアンプ)の調子が悪いというお申し出で、今回同様に実機をお預かりしたのですが全く異常なくお返ししたばかり。基本的には疑わしい機器が見つかったらその機器を単独あるいは他のシステムに移植して不具合が再現するかどうかが大きなポイントになります。

実機が届いてお客さんが使っておられた真空管挿入位置そのままを再現して通電したところRchが死んでいる状態が再現。今回のようにWestern Electric 310A 四本使いでデートコードも同じ場合は自身の錯誤の可能性もあるので、真空管を動かす前に識別番号を振ってから真空管の移動を行います。何回かやっているうちに訳が分からなくなりますから。

Rchが出ないということは91BでいえばV2かV4かV6いずれかの不良であることは間違ありません。今回300Bは無罪ということが分かっていましたのでまずV1/V2の入れ替え、ついでV3/V4の入れ替えを行い即座にV4の不良であることが特定できました。お客さんに連絡し、私どもの手持ち球をV3/V4に差し替えても信号が通るのでV4由来のトラブルであることは間違いありませんと報告し、代替球を送っていただいて処置完了です。

電話で「片チャンから音が出なくなりました!」というのはとても多いSOS。そんな時は慌てずに初段→ドライブ段→出力段(パワーアンプの場合)の順で左右真空管を入れ替えてみて確認すれば原因がアンプ本体由来なのか真空管由来なのかが分かる筈です。

その際は「アンプ単独」で「あらかじめ真空管には背番号をつけて」行っていただくこと。そして何よりも落ち着いて作業することが一番大事なことです。愛機が不調というのは一大事ですが、事象には必ず原因がありますから、修理に出す前にまず冷静に状況を把握してからでも決して遅くない、というお話でした。


by audiokaleidoscope | 2024-03-14 23:59 | オーディオ

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