今日は
先日ブログでご案内しましたC-FT1000(フルデジタルFMチューナー)の続報です。現在の状況は5月の入荷予定分まで完売。6月以降の入荷状況を確認中というところですが、やはり皆さんの興味を一番引いたのはMPC(マルチパスキャンセラー)機能のようです。
FMを空中線(アンテナ)で受信する以上、避けられないマルチパス(反射や回折等の影響で電波が複数の異なる経路を通じて届き、受信側で信号を乱してしまうこと)の悪影響を如何に減ずるかというテーマはFMチューナーの最大の課題の一つといえます。FT1000の最大の魅力がこのマルチパスキャンセル機能です。

(資料提供: 港北ネットワーク)
日々皆さんからMPC効果の有無について質問をいただいていますので、実際の聴取環境でMPCありとなしを比較する実験を行ってみました。今日はその記録をお見せします。
FT1000ではMPCは常時ONではなくマニュアルで起動できるようになっていますので比較は容易です。今回の比較実験の環境は
・アンテナは7エレの八木アンテナ
・アンテナ位置は標高数mの平屋家屋の屋根の上
・Rx(聴取)位置からTx(送信)位置までの距離は直線で30.6km
・ブースター未使用
受信局はNHK名古屋(82.5MHz)としました。まずFT1000本体の表示画面を見てみましょう。

”St”はStereoの意味ですが、ここで恐らく分かり難いのは”81dB”と”37”という二つの値でしょう。81dBは「RSSI」(Receiving Signal Strength Indicator)で簡単にいえば電界強度です。37は「DU比」(Desirable/Undesirable: 妨害波に対する目的波の比)でこの数値が大きいほどマルチパスが少ない良好な状態といえます。
次いでこの状態をオプションのマルチパスディスプレイ(MPD-1, 当社ご購入分には標準装備)で見てみましょう。ここではグラフの表示内容については詳しく述べませんが(製品付属の説明書にて詳細に解説されています)、本体ディスプレイにはなかった「IM」(混変調歪率)が表示されていることに注目し、マルチパスが少ない良好な受信状態ほどIMの値が下がると覚えておきます。MPCなしでIM=0.11%というのはかなり良好な受信状態といえます。

このディスプレイで最も重要な情報は上の画像の中央に示された緑色の軌跡です。ごく簡単に説明しますとX軸=周波数偏移, Y軸=振幅で、マルチパスが存在すると遅延波との干渉現象により搬送波(キャリア)振幅が変化し、軌跡に凹凸が生じます。MPCなしでこのような結果が得られることはあまりなく、多くの場合 軌跡は大きくうねったりコブ状を描く訳ですが、今回の受信位置は送信局から距離はかなりあるものの、経路に大きな障害物がなく地形的にも平野であるために軌跡はかなり平坦になっています。
では次にいよいよMPCを起動してみましょう。

変化したのはDU比です。MPCなしでは37だったDU比が60(上限)まで改善しました。

そしてこれがMPC起動後(左上の表示が「INITIALIZE」→「UPDATING」→「HOLD」に変化)の状態です。MPC起動前の軌跡と比較して明らかに滑らかになっているほか、ディスプレイ下部に見えるIM歪も0.03%まで下がりました。製品規格ではIMの表示下限=0.2%となっていますので非常に大きな効果が得られたといえます。
FT1000におけるMPCは、マルチパスを打ち消すために疑似遅延波を発生させMPC起動前と比較しつつ補正を行う自己学習モデル(メーカーは「係数トレーニング」と呼称)です。従来一部の高級チューナーでもMPC搭載機はあったものの、その効果を可視化でき且つ従来モデルよりも遥かに高い効果を得た点でFT1000のMPCは極めて画期的と言えるというのが私どもの見解です。