”真空管アンプにはハイインピーダンスで高能率なスピーカー”…よく聞かれる不文律的ルール。実際にマーケットには凡そ真空管アンプに似つかわしくないスピーカーも少なからず存在します。
気を付けたいのが数字が実態を示していない例。輸入商社のカタログ値では公称インピーダンス8Ω, 能率90dBと書かれていても実際測定してみると実インピーダンス3.7Ω, 能率86.5dBなんて代物もあったりして、実際にお手合わせしてみないと良い音で鳴らせるのか分からないケースも実際にあります。
他方、適切な真空管アンプの選択によって半導体アンプでは得られない生々しい音で鳴るハイエンドスピーカーもたくさんあります。
B&W, YG, MAGICO辺りはアンプの選択さえ間違わなければ、実は真空管アンプとの親和性は高いパターンですが、今回は久しぶりのWilson Audio(USA)とのお手合わせでした。
Wilson Audio ”CUB"以前 個人的にWilson Audioには苦戦した記憶があり、
System 6を購入したものの歯が立たず已む無く手放したことがありました。CUBを所有されるKさんも苦戦組のひとり。CUBは公称能率94dB, インピーダンス4Ωと謳われていますが、実インピーダンス2.7Ωで実能率も3dB以上低いと言われる製品。アンプのマッチングが取れていないとウーハーはビクともせず、ツィ―ターだけが妙に賑やかに鳴る感じです。
Kさんとのお付き合いは長いのですが、これまで音を聴かせていただいたことはありません。300BパラシングルでCUBを鳴らしてきたがどうも上手く鳴っていないような気がする…ということでしたので、”ウチのだったらこれしかない”というアンプを今回お納めしてきました。
Kさんのリスニングルーム。高原のペンションのような大きなログハウスの二階です。非常に自然な響きの実に心地よい空間でした。
今回お納めしたきたのはSV-38T(300Bドライブトランス結合845シングル35W/ch)です。Wilsonのような難敵は単に出力が大きいアンプをもってくればOKというものではありません。Wilsonならではの澄み切った高域と空気感を十全に引き出しつつ、ウーハーをドライブできる、或る意味 必然の選択がこの38Tでした。
実際38Tを導入される前、SV-192A/D(プリ)の高域側トーンコントロールは左回し切り(=-10dB)にアサインされていました。つまり従来のアンプでは高域が滲み、ドライブできていなかった低域を相対的にブーストするような設定になっていたという状況で、残念ながらこれではWilsonの持ち味を引き出せているとはいえません。
二台で70kgのアンプをインストールして、トーンコントロールをバイパスしたフラット状態で38Tを繋いでCUBを鳴らしてみるとWilsonならではの三次元的空気感が現れ、低域の量感も十分。この鮮度感は845でしか得られない独壇場です。
Kさんからは
「38Tの威力を堪能しております。
ラベルの「ボレロ」、これを初めて最初から音量を変えずに聴きとおす事が出来ました。
今迄は出足の小さな音が聞こえないので音量を上げて聴き始め、5分経過辺りでうるさく成って音量下げ、最期のクライマックス手前の14分位で再び音量を下げる。
今思えば変な聴き方をしていたものですが、好きな曲なので最初の出足からちゃんと聴きたいと思うとこうなってしまうのでした。
38Tのお陰で音量を変えずに「ボレロ」を楽しめる様になりました。」
という感想を頂戴して嬉しく思っているところです。何事も適材適所。アンプとスピーカーの最適な組合せを提案するのも私どもの大切なミッションの一つです。